■リヴァイアサン大祭2012『ソースを拭う時間も惜しくて』
「美味しかったー! 次は……あー! あの屋台美味しそうー!」ミラーネが、満ち足りた満面の笑顔で小走りに走り出す。
普段はとある村で自警団団長を務めるミラーネだが、今日は、リヴァイアサン大祭のあるエルフヘイムに遊びに来ていた。自警団の仕事が待っているため、時間制限付きだが。
ミラーネは、限られた時間の中で思いっきり楽しむべく、最初から全力全開であちこち食べ歩いている。
団長としての立場や責任から離れて、食いしん坊な女の子に戻っていた。
「ミラーネ、まだ口にソースついてるよ!」
キリナが慌ててミラーネを追いかける。
キリナも普段はミラーネが団長を務める自警団の副団長としてミラーネを補佐しているが、今だけは、大好きな恋人との二人きりの時間を楽しんでた。
「いいっていいって、食べてる途中で拭くから!」
「もー……」
ミラーネは、笑顔で振り返りながらも足は止めず、キリナは、しょうがないな、と苦笑する。
そろそろ恋人として付き合い始めて一年が経とうとしているが、付き合いだした当初からミラーネは全く変わらない。食いしん坊っぷりに、はしゃぎっぷり。キリナの方が年下であるにも関わらず、母性を感じさせる大人びた笑みを浮かべながら後を追った。
キリナは、少し速度を上げて、がしっとミラーネの手を捕まえる。
「ほらミラーネ……こっち向いて?」
「んー?」
ミラーネは、捕まえられても、なお、口をもぐもぐと動かし続け、きょとん、とした。
(「普段はすごくかっこいいけれど、偶にすごく子供っぽいんだから……」)
そういう子供っぽいところも含めて、心底惚れ込んでいるキリナが柔らかく微笑む。そのままミラーネの口元に顔を寄せ、ぺろりとソースを舌先で拭った。
「……ん♪」
美味しいね、とキリナは微笑む。
「でしょー! 次はあっちだよ! 向こうの屋台のも食べたいし……もっと楽しむよー!」
「うん♪」
ミラーネは笑顔で、キリナの手を引いて走り出した。