■リヴァイアサン大祭2012『Nuit chaude』
(「大祭……誰かと一緒に過ごすのは初めてだ」)誰か――友人でも、恋人でもない。
より確かな、もっと深い関係。
(「一生無縁かと思ってたが、まさか結婚までしちまうとは……」)
スタンは、最愛の人との繋がりを示す結婚指輪をそっと撫で目を細める。
調理の間外していた小さな金属の輪を指にはめなおしながら、半日がかりの成果をテーブルへ並べていく。
ロトを喜ばせようと張り切り作った料理の数々。
誰かの為に料理をするというのも、スタンにとっては初めてのことだ
(「本当に、今日は初めて尽くしだな」)
それはとても新鮮で、知らず頬が緩んでいるのに気づいて驚く。
(「アイツは好き嫌いが多いから献立考えるのも一苦労だったぜ……デザートばっか食ってたら叱らねぇと」)
それでも、ロトを前にすれば、なんだかんだ言いつつ結局甘やかしてしまうのだろうと、苦笑するスタンなのだった。
「……美味ぇか、ロト……?」
「ああ、スタンのケーキは最高だぜ!」
スタンのとっておきを味わい、とびきりの笑顔で答えるロト。
お裾分けと称して生クリームを口移しにしようとしてくるのも微笑ましい。
(「こんな日常、絶対に来ねぇと思ってた」)
笑顔を向けられるだけで幸せになれる。
そんな相手が自分にできるなんて、今でも信じられないくらいだ。
(「それでもロトは俺に惚れてくれて……。気がついたら俺も本気になってて……」)
「――なぁ、ロト……」
(「お前はしあわせか? なんて、聞けるわけねぇ、……照れくせぇし」)
それでも、もし。
こたえてくれるのなら。
「スタン。俺いま、あったけえ気持ちでいっぱいだ。お前に出会えて、本当に幸せだよ……」
「っ」
不意打ちで向けられた、満面の笑みと心からの言葉に、胸いっぱいにあたたかい物が満ちて。
(「……俺には勿体ねぇ言葉だ」)
何かを言おうとしてもまとまらず、無言のままにロトの体をしっかりと抱きしめる。
(「ありがとう、ロト……。愛してるよ。ずっと傍にいるからな」)
スタンの思いは相変わらず音にはならなかったけれど。
触れ合うぬくもりは、ロトの胸にも届いたと、スタンは確信するのだった。