■リヴァイアサン大祭2012『Снегурочка подарок』
その日はきっと誰もが楽しみにしている年に一度の特別な日。想い合う相手と一緒に過ごすなら、それはいっそう格別で。
だからマーシャはこの日のために、ひと月も前からこっそりと手料理のフルコースの練習を始め、納得いくまで何度も何度もやり直して完成度を高めてきた。
普段鋭さをたたえた蒼氷の瞳は柔らかな愛情を満たして、ようやく出来上がった料理の数々を一つ一つ確認した。
噛めば芳醇な肉の味を堪能出来るローストビーフサラダに、ハムやソーセージ、ほっくりとしたベイクドポテトを添えたオードブルに始まって鴨と七面鳥のローストもジューシーに焼き上がった。豚肉のチーズロールはフライにしたから中のチーズがとろりととろけて絶妙はなず。ピロシキだって作ってみた。
デザートだって頑張った。
初挑戦のベイクドチーズケーキとカスタードのタルトは最後のとっておき。
まずはメインディッシュが彼の口に合うかどうかが不安だったが、期待もしていた。
彼――ロイにとっても毎年リヴァイアサン大祭は特別な日だったが、今年はこれまでとはまた一味違う。
彼女――マーシャとはいつも一緒に過ごしてるけど、当然この日はいつもと違う。
年に一度、ロイと一緒に過ごす初めての特別な日には最高のおもてなしをするからとマーシャに招待されたから。
武骨な鎧を上品な仕立ての良いスーツに着替え、彼女の家に参上すればこれまた優美なイブニングドレスのマーシャが迎えてくれる。
「ようこそ」
目の前に並べられた手料理の数々。
外は寒いけれど、家の中は暖かさが心地いい。
実のところマーシャは断頭台に臨むというか、まな板の上の鯉というか、かなりの覚悟と不安を胸の内に秘めていたのだが、それをポーカーフェイスどころか満面の笑みで巧みに隠していた。
だってそれが女性の嗜み。
普段の男性的な口調も態度も無し。あくまで自信に満ちてたおやかな女性として振舞う。
真っ赤なドレスに同じ色のロンググローブでドレスアップしたマーシャは優雅に鴨のローストを切り分け、はいあーん、とロイの口元に運ぶ。
愛情たっぷりの手料理は、どれもこれもそれはもう美味だった。
ロイにはそんなマーシャが眩し過ぎて、どんなに言葉を尽くしても、結局はシンプルに「幸せ」としか言い表せない、そんな気持ちを満喫していた。
マーシャを恋人と思っているけれど、きっとまだまだだ。領主の執事としても。
けれどマーシャにも、今自分が感じているのと同じくらいの幸せを感じて欲しい。幸せにしたい。
ロイは決心する。
「愛してる」
その一言を心から伝えよう。
マーシャは思う。
そんなロイからの一言を期待してはいた。
とはいえ、既に感無量だった。ロイの笑顔を見られたのだから。
二人にとって、この年は忘れられないリヴァイアサン大祭の一夜となった。