■リヴァイアサン大祭2012『衣装屋さんとお姫様』
リヴァイアサン大祭。一年に一度、水の星霊リヴァイアサンが半実体化し上空を飛び回るこの日は、戒律が守られていた頃のエルフヘイムではパートナーの絆を深め合うお祭りだった。
エンドブレイカー達の手によって戒律を守る必要が無くなった今も、その意味を保っていた。それだけ、エルフ達にとっては大事なお祭りである。
「今年もこの季節がきたのねぇ……早いものだわ」
「確かに。リヴァイアサン大祭は、パートナーとの絆を深める大事なお祭りだ」
感慨にふけるアレクサンドルの言葉に、だが、とクォンタムが言葉を切る。
「……だからと言って、私を飾り立てることに何か意味があるのか?」
「もちろんよ、エルフにとって大事なお祭りらしいし、ちゃんと着飾るべきよね」
普段は動きやすい男物を好んで着るクォンタムだが、今はブティックにある女性らしいドレスを着込んでいた。
なぜなら、アレクサンドルが彼女を強引にブティックに連れてきて、次々と試着をさせている真っ最中なのだ。
元が整った顔立ちでスラリとした体つきのクォンタムに、ブティックの店員もノリノリで店の服を持ってくるどころか、奥で化粧を勧められる始末だった。
「女の子の服は選んでも見ても楽しいから好きよ。
クォンが綺麗になってくれるなら尚の事、私一杯張り切っちゃうわ!」
と、意気込んでいただけあって、真剣な目つきで服を選択するアレクサンドル。
「……うーん、色はやっぱり青系かしら。
暖色系も可愛いけど、寒色系のが似合うのよねぇ……」
(「……まぁでも、アレクが楽しそうだから、いいか」)
そんなアレクサンドルを見て、クォンタムはため息をつきつつ心の中で呟いた。
そして、アレクサンドルは自らのコーディネートしたクォンタムを見て満足そうにうなずく。
「あらまぁ、綺麗綺麗。似合うわよクォン」
クォンタムに姿見を見せるアレクサンドル。彼もまた、ブティックの店員に勧められ、がっしりとした体格にビシッと正装に着替えていた。
「それじゃ出掛けましょうか、お姫様?」
「……そうだな、それじゃ、実体化したリヴァイアサンが良く見えるとっておきの場所にへ案内しよう」
うやうやしく片膝を付いて手を差し出すアレクサンドル。クォンタムもそれに答えるように手を握って、自らのとっておきの場所へと歩き出した。