■リヴァイアサン大祭2012『拙いステップ、刻んで踊ろう』
雪が舞うエルフヘイムは多くの人で賑わっていた。どこへ行っても人、人、人……。それも当然のはずで、今日は年に一度きりのリヴァイアサン大祭。多くの人達が大切な人との時間を楽しもうと出かけているのだ。
その中、アリシアの手を引き、人波をかき分けて進むルミティアの姿があった。
せっかく大好きなアリシアとリヴァイアサン大祭へ来れたのだ。もっとゆっくり出来る場所で一緒にいたかった。だからと言って宿でのんびりなんてしていたらアリシアは夢の世界に入り浸ってしまう。
そんなのは絶対に嫌。でもお腹もまだ空いてないし、温泉って気分でもないからこうやって二人で辺りの散策をしていた。
「遠くまで来ちゃったみたいね。……アリシア、戻る?」
ルミティアはアリシアにどうしようかと相談を持ちかけた。
祭りの賑やかさが遠くに聞こえるほどに遠くへ来たつもりはなかった。しかし、殆どの人が大祭へ出払ってしまった村の広場はいつもの喧騒が嘘のように静まり返っている。
少し考える素振りを見せたアリシアは手近なベンチへ腰掛けながら言う。
「……ん、いいの……これぐらい静かな方が、わたしは好きなの……」
「そう? ……アリシア? ……アリシアッ!?」
ベンチに身体が触れるか否かの瞬間にはアリシアは、コクリ、コクリと夢の中に船を漕ぎ出し始めていて、それをどうしても止めたかったルミティアは彼女の手を取って広場の中央へ引っ張り出した。
「アリシア、踊ろう!」
かすかな祭りの喧騒を音楽がわりに始まったのは拙いダンス。勿論、二人とも経験なんて無いからただ、くるくると回るだけ。
もし、誰かがこの二人のダンスを見れば間違いなく危なっかしくて見ていられないだろう。
けど、誰の足跡もない真っ白な雪のキャンパスの上に描かれていく自分達だけの足跡や、移ろう景色が、何よりも大好きな子と踊っていることが楽しくて二人とも自然に笑顔に包まれる。
「もー。こんな楽しいお祭りの日を寝て過ごすなんて勿体無いよ?」
ほんの少しだけ咎めるように言うルミティア。
「ん……」
アリシアはバツが悪そうに返すだけ。
それでもいいのだった。
睡眠が何より好きな眠り姫に、今日はそれに匹敵するぐらい……ううん。それ以上だと思えるくらいの素敵なことを教えよう。
そんな決意をしたルミティアは早速、今日これからの時間を彩る計画を立てる。
(「まずは手始めに、このダンスを思う存分堪能しないとね!」)
決意を新たにしたルミティアと、アリシアの明るい笑い声と雪を踏みしめる音が静かな村の中に響いた。