■リヴァイアサン大祭2012『天壊の臾』
リヴァイアサン大祭、当日。深夜の廃墟には冷たく風が吹き抜け、2組の足音が硬く響く。
アンブローズとヴィオラ。
共に長身。
かたや廃墟に相応しい無骨な戦闘用の装い、かたや祭らしい優美なドレス。
場所に、あるいは時に合ってはいるものの、それぞれがちぐはぐで、2人合わされば違和感しかない。
「…………」
2人は無言のまま互いに近づいていく。
男と女。
だが、語り合うのは愛などという甘く柔らかなものではなく――。
「…………」
声もなく愛用する武器を抜き放ち、ゆっくりと構える。
いまだ残る祭の華やかな雰囲気からは遥か遠く。
『手合わせ』というには隠しきれぬ――否、もとより隠すつもりもない殺気を纏いながら。
「「――――ッ!!」」
互いに。
同時に。
言葉にならぬ音を吐き出しながら、朽ちかけた石畳を蹴り放す。
住む者の無くなった街の残骸を、刃のぶつかる音が凄絶に彩る。
1合、2合、3合――。
激しく打ち合い、けれども互いに一歩も引かず。
攻め手を一瞬たりとも緩めることなく。
アンブローズ、ヴィオラ、2人とも心の底から殺し合いを楽しむ笑みを張り付かせたまま、武器を振るう。
全身に傷を負いながら、怯むことなく。
ただひたすらに、尽きることなく銀色の流星が地上を彩り、闇夜にきらめく。
勝敗という天秤は揺れ続け、瞬間ごとに優位が覆る。
ヴィオラがアンブローズの首を狙って剣を走らせれば、アンブローズもまた背に回した腕で剣を振るい両断にかかる。
自身の、そして相手の血に塗れることを意に介さず、致命の刃を繰り出し続ける。
その姿は、まさしく獣。
言葉ひとつ交わすことなく。
ただ己が振るう刃をもって感情をぶつけ合う。
ここで、この場で、この戦いで、その命が終わるとしても悔いはないと、終始笑い。
これもまた、彼らなりの祭とでもいうのだろうか――。
全てを出し尽くして争う2つの獣の姿は、凄惨でありながら何よりも生を感じさせるのだった。