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2人でリヴァイアサン大祭

銀牙狼・アルジェン
魔鍵の神楽巫女・レフィ

■リヴァイアサン大祭2012『魂鎮めの儀』

 エルフヘイフの大地に雪が降る。
「彼らの眠りが、安らかであらんことを」
「……うん」
 雪の降り積もる音さえ聞こえそうな静けさの中で、アルジェンの声が響く。
 冴え冴えとした空気の冷たさに白い息を吐きながら、レフィが小さく頷いた。
 一年に一度の祭りの日。大祭の露店を見て回った二人が一日の最後に訪れたのは、この平原だった。
 広がるばかりの平原は、今は染み一つない白の雪原だった。しんしんと、言葉もなく舞い落ちては積もる雪。ただ静かで、大地が安らかな眠りについているようだった。
 しかしアルジェンは、かつてこの地で起きた争いを知っている。この穏やかな場所は確かに戦場だった。彼は仮面を被った妖精騎士達と刃を交え、エルフヘイムを苦しめ続けたスフィクス家との戦いに決着をつけたのだ。
 その代償として失われた命は多かった。
 けれど、今目の前に広がるのは、凄絶な戦場ではなく白い雪だ。
 その穏やかさに、アルジェンは少しだけ救われた気分になった。
「この大祭は等しく全てを祝福する……。それは、ここに眠る人も等しくなのでしょう」
 そう言って静かに目を閉じる横顔を、レフィは見上げる。
 争いを恐れたレフィは戦場へ赴かなかった。だから、アルジェンが見た風景を、ここで命を落とした人々を知る訳ではない。
 それでも、彼の真摯な祈りを見れば、願わずにはいられなかった。
「……どうか、安らかに。そして、生きる者達に希望を」
 一度だけ、まぶたを落とす。
 見ず知らずの全ての魂の幸いを祈る。知らないもののために祈るのは無駄ではない。それどころか、全てのものに対してそう願えるからこそ、その祈りは尊く気高いものだった。
 目を開ける頃には、レフィは少しだけ微笑んでいた。
「行こう」
 促して、アルジェンの手を取る。
 生きる自分達には、帰る場所があった。
 雪原に足跡をつけて、家路を辿る二人。その雪空を、竜にも似た姿の光が横切っていった。
 今日はリヴァイアサン大祭。生ける全てと眠りについた全てを、星霊が祝福していた。
イラストレーター名:笹本ユーリ