■リヴァイアサン大祭2012『聖なる夜に口付けを交わす二人』
12月24日。年に一度、水の星霊リヴァイアサンがエルフヘイムの空を舞う夜。レインとレンは、久々の逢瀬を楽しんでいた。「今日は泊まっていけるんだろう?」
「ああ。せっかくの大祭だし、こうして二人で過ごすのも久しぶりだし……」
向かう先は、随分と足を向けていなかったレインの実家。勿論、恋人のレンを招くのも初めてだ。
「……何か少し緊張するな」
レインはレンを先に座らせると、やや落ち着きなく準備に取り掛かる。殺風景だったテーブルが酒の肴に満たされると、二人だけのパーティが始まった。静かなリビングに、グラスを打ち合わせる澄んだ音が響く。向い合って飲むシャンパンの味は、いつもよりほんの少しだけ甘い。
「そういえば、お姉さんと妹はどうした?」
レンが尋ねると、
「野暮は言いっこなしだ。恐らく……気を利かせて外出してくれたんだろうけど……な」
「……そうか」
レインの言葉に、レンは目を伏せ、静かに微笑んだ。多忙な日々を過ごす二人にとって、こんな時間を持つのは本当に久しぶりだった。誰にも邪魔されない、二人きりの時間。穏やかな談笑を重ねるうちに夜は更け、言葉を交わしながら少しずつ口につけていた酒は、ゆっくりと彼等の体内に周り、心地良い酔いを与えていた。
「……」
無言のうちに、どちらともなく目配せする。レインは静かに立ち上がると、レンを横抱きにして寝室へと向かった。支える腕を通して、レンの身体の火照りが伝わってくる。レンの潤んだ瞳は真っ直ぐにレインを見つめている。
寝室には、かつてレインの両親が使っていたダブルベッドがそのまま残されていた。いとおしい人を、レインはゆっくりとそこに横たえる。冷たい冬の空気の中、レインは音もなくレンと口づけを交わし、彼女の細く小さな身体を、優しく、優しく抱きしめた。
――それからしばし。
「あ」
うつ伏せでベッドに横たわっていたレンが、ふいに声を上げた。
「……レインくん、雪だ」
その声を聞いて、傍らのレインは窓の外を見やる。いつの間にか天からふわふわとした雪が舞い降り、夜空と大地に美しい白色を添えていた。
「雪が舞い降りる聖夜、か」
レンの言葉に頷き、レインはサイドテーブルに手を伸ばす。その先には、先程も乾杯に使ったシャンパングラスがあった。再びシャンパンを注いだグラスを、レインはレンに手渡す。
「もう一度乾杯しよう……か」
「何に、だい?」
「……そうだな、聖なる夜と、俺達の未来に……かな?」
レンは苦笑しつつもレインとグラスを交わし……その唇が、不意にレインによって塞がれた。
「愛してる、レン」
雪が降る。しんしんと降り積もり、地上を清浄なる白で満たしてゆく。
それはまるで、二人のまっさらな未来を祝福するかのようだった。