■リヴァイアサン大祭2012『The Fourth Frosty Day』
その場所は、雪に音が吸い込まれてしまったかのように、静寂であった。エルムヘイムのひとつの巨木、その枝に二人ならんで腰掛け、空を舞うリヴァイアサンを眺めているのはサーシスとリーゼロッテだ。
降り注ぐ雪が、その向こうに広がる夜色に映えて、白銀の輝きを含みながらゆっくりと地面におりてゆく。
リヴァイアサンの姿をじっと見つめているリーゼロッテを横目に、サーシスは懐から小箱を取り出した。
「手を、貸してください」
小さく囁くように、彼はリーゼロッテに声をかける。そして静かに小箱を開いて、中に収まっていた金と銀の指輪を取り出した。
サーシスの言葉によってゆっくりと彼を見やったリーゼロッテは、その二つの輝きに、わずかに瞬きをした。そうしている間にも彼女の左手がサーシスによって持ち上げられて、装着していた手袋を外され、ゆっくりと薬指に金の色が滑り込む。月の光を思わせる、輝き。
金属特有のひやりとした感覚が、全身を痺れさせた。
「……では、そちらも……」
リーゼロッテは、サーシスに向かいそう告げた。
そして彼女も同じように彼の手を取り、左の薬指に銀の色を滑り込ませる。その輝きは、現在も空から降っている雪を思わせる。
互の心の中に広がっていく、新しい幸せの気持ち。
それを感じて、静かに噛み締めていると、サーシスがリーゼロッテを抱きかかえた。
「!」
一瞬、ふわりと体が浮く感覚に、彼女は小さな動揺を見せた。だがそれは、ほんのわずかな時間の中でであった。
直後に感じるのは、サーシスの膝のぬくもり。
彼の膝の上に乗せられた彼女は、思わず伸ばした手を、サーシスの左手に重ねた。
そこで触れ合った二人の左手は、ゆっくりと絡み合って、きゅ、と握られる。
金と銀の色が重なったのを目にして、どちらからともなく、笑みがこぼれた。
サーシスに体重を預ければ、彼の鼓動も、自分のそれと重なっていく。
リーゼロッテは、静かに瞳を閉じた。そして、うっすらとくちびるを開いて、言葉を紡ぐ。
「これほどお傍にいられるなんて夢のようです。……愛しております、サーシス」
これからもどうか、ずっと共に。
そんな願いを込めての、愛の言葉。
サーシスはそんな彼女の言葉を受け止めて、同じように瞳を閉じた。
二人分の手袋は、今は必要はない。重なった輝きを布の下に封じてしまうのは、野暮だと感じたのだ。
「僕の最愛の、リーゼロッテの手だ」
じわりと伝わる彼女の体温を確かめるようにして、彼はそう呟く。
この先も、このぬくもりをいつも近くに感じられるように。
静かな森の大樹にいだかれて、二人はその距離をいつくしむようにして、身を寄せ合っていた。