■リヴァイアサン大祭2012『Honey*Honey』
星霊リヴァイアサンが空を舞い、優しい雪が降り続く夜。泉は温泉に変わり、小川には甘い蜜が流れる年に1度のこの日。その甘い蜜の流れる川の畔に立てられた一夜だけのバザール。
店先に並ぶお菓子や飲み物のどれも美味しそうで瞳を輝かせながら見てまわるクーネラリア。勿論、彼女の瞳を輝かせているのはそれだけではない。
去年のクロノス大祭で思い切って想いを打ち明けたムルムクスと久し振りに一緒に出掛けられている。その事が何より彼女の見る世界に彩りを与えていた。
クーネラリアがふいに立ち止まる。その瞳はとある屋台に並ぶお菓子に惹きつけられていた。
「どれも美味しそうですね」
「あぁ……」
振り向いてにこっと微笑むクーネラリアの言葉に、ムルムクスは優しい眼差しで頷く。その時、ムルムクスはすぐ隣に装飾品の売っている屋台を見つけた。そこ並ぶ装飾品を何気なしに眺める。ふと雫型をした琥珀のネックレスがムルムクスの目を惹いた。
「……」
ちらりとクーネラリアを見る。その瞳は屋台のお菓子に釘付けだ。ヒナオリ家の当主といえど、まだまだ少女なのである。
(「……似合いそうだな……」)
青い瞳と銀の長い髪。その髪には青薔薇の髪飾り。白や青系の服を好む彼女の胸元に琥珀色は良いアクセントになるだろう。
ムルムクスは見た目こそ若々しいが、クーネラリアとの実年齢は祖父と孫ほどに離れている。何時までこうしていられるか、年若いクーネラリアと一緒に居ていいのか、その気持ちにまだ決着はついていない。しかし、こうして過ごす時間はせめて彼女が楽しく過ごせるようにと不安に蓋をした。
――シャラ……。
「!?」
どのお菓子を買ってみようか必死に悩んでいたクーネラリアは、背後から急に首に何かをかけられ驚いて振り向いた。
「今日の日の思い出に、ね?」
ムルムクスが優しい笑みで彼女を見つめ、そっと手を繋ぐ。
「綺麗……有難う御座います……」
クーネラリアは空いている手でかけられたペンダントをぎゅっと握り、微笑んだ。
いつかクーネラリアが自分を忘れる日が来ても、幸せだった気持ちを残せるように――蜂蜜色の琥珀に込められた想い。