■リヴァイアサン大祭2012『手のひらのぬくもり』
凍る寒さの季節。誰もが息を白くさせながら生活する。だが今日この日はそんな気配を欠片も感じさせない。リヴァイアサン大祭を迎えた街は鮮やかなイルミネーションに彩られ、世界を明るく染め上げる。道行く誰もが顔を明るくし特別な日を楽しんでいる。
「リヴァイアサン、クロノス、もうそんな季節なんですねぇ……」
歩くだけでこの日の特別さを感じる中、ヴィクトリアはもうこの季節になっていたのかと感慨に耽る。
隣で歩いていたクルードもそれに頷きを返す。
「冬だと思ってたが……もうこんな時期なのか」
毎年、同じ様な事を言ってばっかりな気もするが、過ぎた時間は思い返せば本当昨日の事みたいだ。
買出しの荷物を持ちながら街を歩けば、その度に同じような会話を何度もしたように思う。けれど、まったく同じことなんてなくて少しの変化がまた楽しい。
「さて、色々買いましたけれど何を作りましょうか? 今日はお祭りですしね、クルードさんは何が良いですか?」
温かいシチューも良いですし、ミートパイとかも美味しいでしょうしと楽しげにヴィクトリアは献立を提示する。
「俺は何時も通り、ヴィタの作った手料理を食べる事が出来たら割とそれで満足なんだけどな」
でもこれじゃメニューの参考にもならないかと苦笑してしまう。本音であるだけについ言ってしまった。
ヴィクトリアは少し照れたように頬を染めつつ、仕方がないですねと微笑む。
そうして紡がれていく二人の会話は何も特別ではないからこそ特別だった。
当たり前のように共に歩き言葉を交わす。それがどれだけ幸せなことか。
「来年もまた、こうやって過ごせたら良いですね」
そっと囁くように紡がれた幸いの未来を願う言葉。
その言葉にクルードは笑みを浮かべながら愛しい相手の手を引く。
「きっと来年も同じ様な事言って、幸せにやってるさ」
想いの言霊は確かに響き幸いの未来を約束する。
ふと、一人で歩いてた昔を思い出しそうになる。だが今はとてもじゃないが前の様になれる気はしない。
気づけば自然と彼女の手を握っていたのと同じように、こうして一緒に歩いていることが当然になっていた。
「昔はこれも照れたものですけれどね。今では繋いでないと……その、少し寂しいと思いますもの」
繋いだ手を見てより嬉しそうに笑う。きっと来年も、そのまた先もこうやって手を繋ぎ共に歩くのだと思えた。
何も心配することなんてない。この黄金のような日常は変わらない。
「ふふっ。それじゃあ、お家に帰りましょうか旦那様?」
「……おう、んじゃ、帰りますか。俺達の我が家に」
二人は仲睦まじく身を寄り添いながら、この時間を楽しむように少しだけゆっくりと家路につくのだった。