■リヴァイアサン大祭2012『愛しい大切な約束』
エルフヘイムは、毎年この時期には人が多くなる。その原因は、天空に舞うリヴァイアサン、ないしはその大祭のため。それを仰ぎ見つつ、サクヤは向かっていた。
義妹の元へ、愛しき少女の元へと。
「よっ、カノン」
「あれ〜、義姉? いらっしゃい」
いつもの眠たげな口調と眼差しで、彼女はサクヤを迎え入れてくれた。
カノンティーナ・アルジズ。サクヤよりも年上の、サクヤにとって大事な義理の妹。
「メリーリヴァイアサン! お菓子とケーキ持ってきたんだ、一緒に食べよう?」
「ほいっ、チェックメイト」
「あははっ、今度は負けちゃったねえ。……どうするカノン? もう一勝負する?」
「んー……それもいいけど。チェスより今は、一休みしたいなー」
甘えるようなカノンの声を聞き、サクヤの口元がほころぶ。
「よっし、じゃあ……お茶とお菓子タイムにするか!」
沸かした湯をポットへと注ぐと、紅茶の茶葉が醸し出す良い香りが漂い出てきた。それはサクヤにも届き、彼女の鼻をくすぐった。
お菓子の準備も万端。ソファに隣り合わせで座り、二人っきりのささやかなお茶会が始まった。
「わっ、このケーキ美味しい!」
「気に入ってくれたようで、なによりだよ」
嬉しそうにケーキを頬張るカノンを見ながら、サクヤもまたケーキを口に運ぶ。うん、これは当たり。
上品な風味の果物に、甘さ控えめのクリーム。後から口いっぱいにひろがる、キャラメルのほろ苦い甘さが、またたまらない。
「……」
紅茶を一口飲むサクヤだが、ふとカノンを、じっと見つめる。
「義姉、どうしたの?」
それに気づいたカノンだが、サクヤはわざと返事をせず……唇を、カノンの口元へと近づけ……。
「ちょ、ちょっと、何を……」
……彼女の口元についていたクリームを、ぺろりと舐めとった。
「……クリーム、付いてたよ」
いたずらっぽく笑うと、カノンは真っ赤になって俯き……恥ずかしそうな、けれどもどこか嬉しそうな口調で……呟いた。
「……もう、義姉の……ばか……」
「……そして、星霊はその後、幸せに暮らしました……ふわぁ」
ソファにて、カノンの好きな絵本を読み聞かせていたサクヤは、読み終わって初めて気づいた。
隣のカノンが、クッションを抱きしめてぐっすりと眠っていたのを。
「……ふふっ、本当に……かわいいなあ」
このまましばらく、この寝顔を見ていたい。そう思ったサクヤだが、自分にもまた睡魔が襲ってくる。
「来年も……」
眠りに落ちる直前。サクヤはうすぼんやりと頭に思い浮かべた。
来年も、一緒に過ごせるようにって……約束、したいな……。来年もまた、この愛しい大切な時間を過ごせるよう、約束したい。
でも、今は……。
ソファにもたれ、眠りに落ちるサクヤ。その膝元で、眠っているカノン。
眠る二人、義理の姉妹にして、相思相愛の二人。彼女たちの眠る姿を、窓からの星明りが静かに、優しく照らしていた。