■リヴァイアサン大祭2012『小さな幸せが降り積もる夜に』
降っているのが、わかる。家の外には、雪が。そして今いる家の中には、幸せが。
シェキーラは台所に立つ夫を見て、幸せな気持ちを実感していた。腕に抱く娘……マリンの重みが、その幸せな気持ちをさらに増してくれる。
「ダーリン、手伝うわ」
「いいから、座ってろって」
アムオス……シェキーラの夫は、そんな彼女に見守られつつ、料理の真っ最中。
リヴァイアサン大祭。アムオスは今日のため、シチューを作っていた。昨日から仕込み、張り切ってその腕を振るっている。
そういえば……と。シェキーラは思い出す。
アムオスにプロポーズされたのも、ちょうどリヴァイアサン大祭の夜。
その時のプロポーズを受け、……自分たちは、結ばれたのだ。
夫婦となって、シェキーラは夫に贈りたいものがあった。
それは、家庭。暖かな、家庭の日常。
天涯孤独な子供時代を過ごした夫に、暖かい家庭をあげたい。だからこそ一緒になったけど……。
「えーと……うわっちっちっち!」
夫の背中を見ていると、つい思う。
「……それを貰ってるのは、私の方かも」
食卓についた、夫婦二人の目前。卓上に並べられたのは、ごちそうの数々。
香ばしい匂いのパン。
エビとブロッコリーが飾られた、ボロネーゼスパゲッティ。
海の幸入り、シーフードグラタン。
ドライフルーツたっぷりの、シフォンケーキ。
そして、アムオスの自信作、ホワイトクリームシチュー。
「さって! んじゃあ……」
シャンパンのグラスを、アムオスは手に取り掲げた。
「……乾杯! 3人で過ごす、初めてのリヴァイアサン大祭だ」
「乾杯!」
シャンパンで口を湿らせたのち、シェキーラはシチューをひとさじ口に。
「……ふふっ、おいしいわ。ダーリン、お料理頑張ったのね」
「ははっ、そりゃそうさ。大切な奥さんに食わせるんだ。こういう時に頑張らないやつはいないさ」
その言葉を聞き、マリンがねだるかのように声を上げる。
「マリン? お前も食いたいのか? ……うーむ、ジャガイモやニンジンなら、潰してあげればいいかね? いや、それともケーキの方が……いやいや、まだケーキは早いよな……ふむぅ、色々悩ましいなあ」
悩む夫の様子を見て、つい口元がほころぶ。
「まだ二ヶ月くらいじゃ無理ね、ふふっ」
でも、ちょっとだけなら。
小さなスプーンの先に、ほんの数滴シチューを垂らし、それをマリンに舐めさせる。
「これからも、もっとうまいもんを食わせてやるからな?」
「ええ、楽しみにしてるわ、ダーリン」
ささやかな夕食、そして他愛のない会話。
けれどそれらは、小さくとも大切な幸せの欠片。夫がくれたそれらは、降り積もっていく。
それはこれからも降り積もっていき、思い出になっていくのだろう。
大事な、思い出に。
「……? どうした?」
尋ねるアムオスに、シェキーラは心からの微笑みを返した。
「ううん、なんでもない。……大好きよ、ダーリン」