■リヴァイアサン大祭2012『So long, ――』
仄かな灯りのみの薄暗い静かな部屋。「逃がさない」
仰向けの男――アッシュに跨り、思いつめたように呟いたロズランシェの声が響く。
突き放そうと思えば容易にできるのに、アッシュはそれをせず、
「指輪を渡さなきゃいけない奴がいるんだ。今日」
呟いた。
今日はリヴァイアサン大祭。水の星霊リヴァイアサンが半実体化して上空を飛び回り、雪が降り続く中パートナーと絆を確かめ合うとされる日。
「……」
その言葉に落ちる沈黙。
女好きで多くの女友達がいるアッシュ。
(「そんな相手がいる? 逃げる為の嘘?」)
「それが本当なら、殺して欲しいわ」
ロズランシェの言葉が沈黙を破った。
「……」
アッシュは悲痛な表情のロズランシュから視線を逸らさずに、じっと無言で見上げる。
「こんなにも愛しているのに……どうして貴方は、わたしのものになってはくれないの」
「駄目だ。そいつは出来ない」
静かな冷たい声で訴えるロズランシェ。そんな彼女をアッシュは真っ直ぐ見上げて、はっきりと答えた。
「あなたがわたしを助けたんだから……わたしの傍にいれないのなら、あなたがわたしを殺してよ」
かつてロズランシェはアッシュに救われた事がある。
その時の事がアッシュの脳裏を過ぎったのか、ロズランシェの頬にアッシュの指が触れた。
「ローズ。お前を助けたかった。今でもそうだ」
真っ直ぐなアッシュの言葉。眼差し。普段どんなに飄々として軽薄は言葉を発していようと、根は真っ直ぐで正直な彼。
その言葉に、指が触れる頬の感触に、ロズランシェの体が震える。
「あなたはわたしが、あなたなしで生きていけると本当に思っているの。強い女だと、本当に思っているの」
苛烈なまでに強い思いを隠そうともせず、震える声でアッシュにぶつけた。
「思ってるさ。……俺の目には見えるんだ。そういうエンディングが」
アッシュは静かに、呟くように答える。
エンドブレイカーのエンディングなんて見える訳がない。その詭弁にロズランシェは俯いて潤んだ瞳を隠し、唇を咬んだ。頬に触れる指先さえ冷たく感じながら。
「――決めつけないで。あなたは駄目な男よ」
「ああ、知ってる」
アッシュは笑って、ロズランシェの肩を押した。
――本当の別れのために。
「さようならだ。……ロズランシェ」