■リヴァイアサン大祭2012『廻る、蜜月』
星霊リヴァイアサンが粉雪と共に空を泳ぐ――そんな希有な光景は、エルフヘイムに構えるとある豪奢な別荘からも一望出来ていた。そのバルコニーには、どちらからともなく身を寄せ合うアルトとロレッタの姿があった。
初めて二人で共に見つめるその景観に、言葉は必要無かった。眼前に広がる空はその日が特別な日であることを教えてくれている。そしてそんな日を共に過ごせることが、嬉しかった。
けれど、その分長居してしまったのかもしれない。
外気はまだ冷たく、暖炉の温もりを感じる寝室に戻ってきても尚、その身には少しの肌寒さが残っていた。ロレッタは自らの腕をそっと抱えて呟いた。
「流石にちょっと冷えたね……アルトは大丈夫?」
嬉しさに気を取られていて気付かなかったが、不意に不安になり、ロレッタはアルトを見上げる。
心配に揺れる灰桃の瞳。アルトはその双眸を柔らかく見返した。
「俺は大丈夫だけど、ロレッタこそ寒くなかったかい?」
相手を気遣う心はお互い同じだったらしい。その頬の温かみを確かめようと手を伸ばしたのは、自然なこと。
だがその前にアルト自身の頬にロレッタの指先が触れた。そして、そのままふわりと包み込む。
伝わる手の温度、頬の温度。
誘われるように二人の視線が緩やかに絡み合う。
――彼らが出会ってから幾日が過ぎただろう。それでも、こんな一瞬に胸が高鳴るのは不思議と変わらないのだ。
「……どきどきするって言ったら、笑う?」
擽ったげに微笑み、問う。答えを待つ間もなくロレッタはアルトの腕に手を添えると、そのまま小さく背伸びをした。
そうして柔らかく触れた唇の温もり。アルトの一瞬の驚きはすぐに微笑に変わった。
別に笑わないよ、と笑んだままお返しにと優しく口付けた。
「俺もどきどきしてるから。……そう言ったら、笑うかい?」
唇が離れた僅かな隙間に、その声音と瞳に偽りのない真剣な想いを乗せ、アルトが囁いた。同じ問いを返されたロレッタが瞬く間もなく、再度重ねられた口付けは深く甘い。
頬を愛おしく包む掌が、心地良い。
何より甘いその熱に、蕩けてゆく。
返事の声さえ、とろり融けてゆく。
――あのね、一緒で幸せ。
誰よりも近い距離、ふたつの鼓動は重なっていく。
甘えるように囁けば、潤む瞳が綻ぶ。
すきもだいすきも伝えて欲しい。
けれど、言葉だけではもどかしくて。
もっと、触れ合いたい。全部で。
今度はそっと 誓いの白銀が煌めく左手を絡めて。
耳元へ落とす声に、唯一の想いを込めて。
――これから先も一緒って、教えて。
蜜月はこの瞬間も、そしてこれからも続いていく。
ふたり触れ合う熱が、そう伝える。