■リヴァイアサン大祭2012『La mia principessa』
ダンスホールの扉に触れるその手から、鼓動が響く。この扉の先に愛おしい人がいると思うと、時折キュンと胸が苦しくなる。
大祭イブの次の日、誰もいないこの場所で、2人は約束した。
もらった櫛に合わせて、イクサのことを想いながら選んだドレス。
今夜は、特別な日だから、特別可愛いわたしでいたい。
高鳴る胸を抑えながら、そっとに扉を開く。
「おっ、ルゥル! やっほ!」
大きな扉を開くルゥルに声をかけるイクサ。
いつものように声をかけたつもりだったが、いつも以上に可愛いその姿に息をのんだ。
悟られないように満面の笑みでルゥルに手を伸ばす。
その笑顔は冷たい氷をも溶かしてしまうようにとても温かい太陽に見えた。
見つめ合う目と目。
絡み合う手と手。
華奢な体、細い指、ルゥルの全てが愛おしくて綺麗で。
改めて隣にいるのが自分でいいのかとイクサは心のどこかで感じていた。
ただ、自分を見つめるルゥルの瞳はとても楽しそうで、2人で呼吸を合わせるこのリズムが何より嬉しくて、不安な気持ちはすぐに溶けていった。
「リードしてくれて、ありがとう」
ぎこちない動きでも自然と体がリズムにのっているのをルゥルは感じていた。
それは、イクサがこの手を引いてくれるから。
しかし、その言葉にイクサは首を振った。
「リードなんてできてないよ。ただ、ルゥルが踊ってるのを見て俺も自由に踊ってるだけ」
そんなことを言いながら笑いかけてくれるが、でもやはり率先して手を引いてくれるのを感じる。
この温かい気持ちをくれるのはあなただけ。
世界でいちばん大好き、と今にも叫びたくなった。
「きゃっ!」
慣れない靴にルゥルはバランスを崩してしまった。
倒れないようにとっさにイクサがルゥルを抱きとめる。
「……!」
気付いたら、愛おしい人の胸の中。
思わず声が出なくなってしまう。
抱きとめたルゥルの髪に以前贈った櫛が飾られてるのを見て、さらに愛おしさが増した。
静かな時のなか、高鳴る鼓動が重なり合う。
ずっとこの時間が永遠に続けばいいのに――そう思わずにはいられなかった。
「ルゥル、このまま離したくない」
その言葉にみるみるルゥルの頬が紅潮していく。
「離さないよ、俺の、お……」
「……?」
言葉を詰まらせたイクサを不思議そうに見つめるルゥル。
「うまく言えないけど、この先なにがあっても俺がルゥルを守るから」
イクサの服の裾をぎゅっと握り締め、ルゥルはそっと頷く。
二人の尊い時間が消えないように、互いにきつく抱きしめ合った。
「ずっと離さないでね。わたしの王子様」
躊躇わずに真っ直ぐ気持ちを伝えてくれるルゥルに、イクサは先ほど言えなかった言葉をルゥルの耳元でそっと囁いた。
(「ずっと守るよ。俺の、俺の……おひめさま」)