■リヴァイアサン大祭2012『降り注ぐ白銀の宝石の中で』
冷え切った石畳に降り積もる白い雪は、街の灯りを受けてまるで宝石のようにきらきらと輝きを放っていた。その道をゆっくりと歩くのは、エリックとシルヴィーアである。
リヴァイアサン大祭を二人で楽しみ、現在は帰路を進んでいるのだ。
「あ、また降ってきましたね」
ちら、と視界をかすめる白銀の粒に最初に反応したのはシルヴィーアだった。自然と、足も止まる。
エリックはそんな彼女の視線を追うようにして顔を上げた。すると空からは新しい冬の使者が舞い降りていて、彼は少年らしい笑みを浮かべて、両手を宙へと差し出した。
手のひらに落ちる雪は、肌に触れるか触れないかの位置で、その形をゆっくりと崩していく。
「ねぇシアさん、きれいですね」
「そうですね」
エリックがぽつりとそう言えば、シルヴィーアはきちんと返事をくれる。
自分より年上の、スタイルのよい美しい人だ。
彼はこの彼女に、恋をしている。
少し前にその想いを伝えてはいるが、明確なものは未だに見えない。それでも、こうして二人で行動できているというのは、僅かに先が明るい色であるのだろう。
「……エリック君、これ以上積もったら宿屋に帰るの大変じゃないですか?」
ふと間を置いて、シルヴィーアがエリックにそう声をかけた。
エリックはエルフヘイムではなくラッドシティに宿をとっているために、道のりが大変そうだと感じたのだろう。
「うーん、言われてみれば、そうですねぇ……エルフヘイムで宿とったほうがいいかなぁ」
シルヴィーアの言葉を耳にして、エリックはその場で腕を組んで思案した。
世界の瞳を通じればラッドシティまでは容易にたどり着くことは可能ではあるが、確かに少しだけ困難かもしれない。
「それなら、私の所に泊まりに来ませんか?」
「え、ええ!?」
突然のシルヴィーアの提案に、エリックの声が裏返る。はじかれるようにして彼女を見やれば、いつもどおりの優しい笑顔がそこにはあった。冗談などではないらしい。
「えっと、いいのですか……?」
「もちろんですよー」
少しためらいがちに、エリックがそう問い返す。
するとシルヴィーアはこくりと頷き、応じた。
大切な人と過ごす時間。
想いを寄せている人の家に世話になるというのは、やはり少しだけ緊張するし、頬もほてる。
だが今は、それよりも嬉しくて幸せな気持ちがエリックの心を満たしていて、彼は素直にそれを笑みへとかえた。
音もなく降り続ける雪の中、二人は再び歩みを再開させて、ゆっくりとその道の向こうを進んでいくのだった。