■リヴァイアサン大祭2012『ゆきいろの誓い』
藍色の空から、白雪が舞う。星霊リヴァイアサンの起こす奇跡は、夢のような時間であった。
その光景を初めて目にして素直に感動を示すハヤテと、過去に親しい旅団の人達と過ごしたあの夜を思い出しているユリアス。そんな二人が今、肩を並べて白銀の雪を眺めていた。
「キミはこの光景を、知ってるんだね」
オレも見たかった、とそう続ければ、隣のユリアスが小さく笑った。
「今、見ているだろう」
そして彼女は、当たり前のようにそう告げて、ゆるりとまた宙を見上げる。
ふわりと口元から溢れる吐息。
それを目にしつつ、ハヤテはいつものように笑顔を作ったあと言葉を続けた。
「確かに、そうかも!」
元気な声と、変わらぬ笑顔に、ユリアスの表情もゆるくなっていく。
降り続ける雪が、まるで花の舞うそれのようだと思った直後、ユリアスの右手にぬくもりが訪れた。
それに釣られるようにして目をやれば、ハヤテがわずかに緊張した面持ちで、彼女の手を取っている。
そして。
「ね、オレの話、聞いてくれる?」
「……? なんだ、改まって」
突然のハヤテの言葉に、ユリアスは小首をかしげて、そう聞き返す。
ハヤテはそれを耳に受け止めた上で、改めて一拍の間をおいたあと、再び口を開いた。
「オレのマスターになってよ。守りたいんだ、キミを」
そう言う彼の笑顔は、まさに陽だまりだった。
ユリアスはその笑顔にゆらりと心が揺らいでしまいそうになりつつ、直後に表情を固いものにして、彼を睨んだ。
「守らないといけないような、そんな弱い人間に見えるのか?」
騎士として立つ彼女には、若干のプライドというものが揺さぶられたのかもしれない。
ハヤテはふるり、と首を振って、天を仰ぐ。
「オレは、弱いから守るんじゃないよ」
そう言うハヤテをユリアスはじっと見やる。手は、握られたままだ。
「君のとなりにいて、その笑顔を守りたいんだ。オレがキミに、笑ってて欲しいだけなんだけどね」
純粋な守護者としての性と、それから。
出来れば自分だけが彼女の、その笑顔を守りたい。そばで見つめていたい。
「――それじゃ、駄目かな?」
少しの間と抑えた声音に、ユリアスはまた、小さく笑った。
彼の言う『守る』の意味。
それを静かに自分の中で、飲み込むようにして体へと広げていく。
「……お前には、適わないな」
ふ、と困ったような色合いをにじませた、ユリアスの笑顔。
彼女は少し肩をすくませて、そんな言葉をハヤテへと届けた。
寒空の下、空気に溶けた彼女の言葉がキラキラ、と音色を奏でたような気がした。
それは、ひそかに、二人だけに結ばれていく雪色の誓いとなるように。