■リヴァイアサン大祭２０１２『再会』
唇から零れた白い息が、同じように白く染まる街に溶けて消える。アイルは人々で賑わう街角を眺め、それから吐息と共に肩を落とした。
年に一度の、リヴァイアサン大祭。この時間になるまでは猫を追いかけたり、フェルプールハントの仕事があってかなり忙しく過ごしていたのだ。ようやくそれらの仕事を終えて、大祭を楽しむためにやってきたら、この有り様。恋人同士が寄り添うための場所はいくつも用意されているけれど、逆に言えばアイルが一人で楽しめそうなイベントは何もない。
せっかく来たのに。
そう思ってガッカリしながら引き返そうとした、その時。
「……アイル？」
驚きと躊躇いを含んで呼ばれた、自分の名前。
その声の懐かしさに振り返れば、大切なあの少女の姿。春に咲く花に似た色の髪、同じ色の瞳。
間違いない。
「ピ、ピアリー！？」
はぐれていた己のマスターの姿を見出し、少女の名を呼びながら駆け寄るアイル。ピアリーと呼ばれた少女もまた、アイルへと手を伸ばす。
「ピアリ〜」
「アイル〜」
突如として、ゆっくり流れ出す時間。二人の瞳に他の人たちの姿は映らず、ただお互いだけを求めて駆け寄り、大きく手を広げる。そして再会の時を喜び、互いを抱きしめ合う……
……かと思われたのだが。
「アイル〜。……死ね！」
一転して低くなった声でピアリーがそう言い放つと、繰り出されたのは抱擁ではなく、世界を狙える右ストレート。
強烈なパンチを左頬に受け、アイルは大祭で賑わう街角で見事なまでに吹っ飛んだ。
「ど、どういうこと！？」
ぷく、と腫れた頬を抑え、降り積もった雪の上に尻餅をついたアイルが、怒りに震えながら抗議する。しかしそれに応じるピアリーも、白い頬を赤く染めて反論してきた。
二人がはぐれてしまった原因は、猫に夢中になったアイルが、それを追いかけて走り出してしまい……ということだったらしい。ピアリーは慌ててアイルを探したものの、その時には既に姿を見出すことは出来なかったのだという。
「そ……そうだったかしら」
当時のことを思い出し、バツが悪そうに視線を逸らすアイル。そんなアイルをピアリーは怒った顔で見下ろしていたが、不意に吊り上げていた眉を下げると、唇から震える言葉を紡ぎ出す。
「私が……どれだけ心配したと思っているの！」
そう言って一歩踏み出し、今度こそ大切な片割れを抱きしめる。
「……ずっと一緒だって……言ってくれたでしょ……？」
泣きなが訴えるピアリーの姿を、アイルは呆然と見つめていた。しかしすぐに優しく微笑むと、そっと手を伸ばし、大切なマスターの髪に触れる。
「ごめんね、ピアリー……」
震える背中を見つめ、彼女を安心させるように、ゆっくりと頭を撫でてやる。
はぐれてまた巡り合い、互いの絆を確かめ合って、この聖なる日に。
白い雪は少女達の周囲をちらちらと輝きながら舞い降りて、二人の再会を祝ってくれているかのようだった。
