■リヴァイアサン大祭2012『大事なものだからこそ』
「ほら、見えるかい?」アルトリウスは彼女へ語りかけ、天空を仰いだ。
星空に舞うは、星雲リヴァイアサン。
「あれが……リヴァイアサンなんだ……」
輝ける星雲を、ティアリスは見つめていた。
その様子に、彼は安堵した。自分と違いティアリスは、リヴァイアサン大祭に参加するのは初めて。だから誘ってみたけれど、喜んでくれているようで何より。
近くに流れる小川。その流れを指ですくったアルトリウスは、ティアリスの口元へ持って行く。
「ほら、甘いぞ?」
「え?……」
いきなり差し出され、困惑したティアリスだが、恐る恐るその指先を舐める。
今日一日は、このエルフヘイムに雪が降り続け、湧き出す泉は温泉に、そして小川に流れる水は甘い蜜へと変わる。
「……あ、甘い……」
が、すぐティアリスは表情と態度を変化させた。
「……って! 指! 指ぃーっ!」
顔を真っ赤にしつつ、ぷいっと横を向く。
「アルトのばかっ! 知らないっ!」
「……はい! これ!」
ぞんざいに、ティアリスは包みを突き出す。
一通り回り終えたのち、二人は互いにプレゼントを渡す事に。
「これは……手編みか?」
それは、セーターだった。じっくり検分し、アルトリウスはそれに袖を通す。
「頑張ったんだな。……嬉しいよ」
その言葉に、ティアリスは嬉しそうに微笑むが、すぐに横を向く。
「……お、お世辞は良いわよ。ところどころ解れてるし、よれよれだし……」
「でも、ありがとう。大事にするよ」
「……ま、まあ見てなさいアルト。来年はもっと綺麗に作るからね!」
さらに強気な口調で、ティアリスは言い放った。
「じゃあ、今度は僕から……」
そう言って、ティアリスが振り向くのを待ち……アルトリウスはネックレスを差し出した。
「謂れがあるものじゃないが、僕が一番大事にしてきた物だ。だから……君に持っていて欲しい」
しばらく、沈黙がその場に。
沈黙を破ったのは、ティアリスの言葉。
「……しょ、しょうがないわね! そこまで言うんなら、受け取ってあげるから……」
向き直った彼女は、アルトリウスへと首を伸ばした。
「……あ、アルトがつけてよね!」
その言葉に従い、アルトリウスは優しく……彼女の首を飾った。
「……冷えてきたし、そろそろ……帰ろう。その……」
「?」
ネックレスをかけ終え、アルトリウスは意を決し、言葉を放った。
「……来るか? 僕の、部屋に……」
「……え? あ、えっと!」
時間をかけ、ようやく何を言われたのか理解したティアリスは、耳まで赤くして、アルトリウスから視線を外す。
「に、兄さんが待ってるし!」
それだけ言うと、彼女は振り返り駆けだした。
「あ……」
やれやれ、急ぎすぎたかな。
心の中でつぶやくと、彼女を家まで送るため、アルトリウスは彼女の後を追った。
別れ際。
アルトリウスは気づかなかった。ティアリスがつぶやいた言葉に。
「……行きたくない……わけじゃ……ない、から……」