■リヴァイアサン大祭2012『このてのひらの温もりを、君に』
暖炉には炎が躍り、居間へと暖を送っている。まるで赤い服の踊り手が、躍っているかのよう。そして外では実際に祭りが行われ、それを楽しむ人々の喧騒が響いていた。
「……寒い」
リヴァイアサン大祭のこの日。寒さを覚えたリデルは居間へとやってきた。そこではすでにペンペロンが、酒をカップに注ぎ、外の喧騒を聞きつつのんびりと過ごしていた。
彼の姿を見ると、ついリデルは頬を緩ませてしまう。嬉しそうな表情を向けると、ペンペロンもまた同じような表情を返してくれる。
「ほら、こっちに来いよ。ホットミルクがあるぞ?」
ソファに身を沈めたペンペロンは、目前の小さなテーブルと、向かいの席を指し示した。テーブル上には、湯気が立つカップが置かれている。
リデルはそのまま、席に座った。ペンペロンの座っているソファ、ないしはその足の間に。
「お、おいおい。何やってんだ」
驚いたように声を上げる彼に、リデルはわざと答えない。
「……」
その代わり、わざと体を震わせる。寒そうに身震いし、背中越しにペンペロンへと振り向き、視線を向けた。
その口元に、いつの間にか笑みが浮かぶ。悪戯っぽい笑みが。
けれど、ペンペロンへと向けた眼差しは、ちょっとすがるような、甘えるようなそれ。
「……寒いのか?」
ペンペロンもまた、それ以上言葉を続けない。
けれど、リデルにはなんとなく伝わってきた。彼が「しょうがないな」と感じ、そして、より暖かくしてくれる事を。
言葉を連ねる代わりに、彼は行動で気持ちを、想いをリデルへと伝えた。
「……」
後ろから、優しく抱き寄せられた。そしてそのまま……ペンペロンは自分ごと、ショールでリデルを包みこんだ。
「ほら、これであったかくなったろ?」
彼のかけた言葉に、リデルはこくりとうなずき……卓上のカップへと手を伸ばす。
暖かい。ホットミルクの暖かさが、カップを通じ手に伝わってくるのがわかる。
カップを手にしたリデルの手を、ペンペロンがカップごと包み込んだ。リデルは感じ取った。そこから更に、暖かさが増していくのを。
「……ふふっ」
身体の、余計な力が抜け……リデルは気づいた。自分がペンペロンへと、背中を預けていた事を。
暖炉で踊る炎が、より赤く燃え上がる。それは部屋を暖め、同時にリデルを、リデルを包むペンペロンをも暖めてくれている。
彼の体温もまた、背中越しに感じ、伝わってきた。
「……本当に、甘えん坊だな。リデルは」
声に出さずとも、ペンペロンがそう言ってくれたような。そんな気がした。