■リヴァイアサン大祭2012『Mitra-Stella』
「綺麗ですわ……」大樹の枝に腰掛けたアルカが白い息を吐きながら感嘆の声を漏らした。
「リヴァイアサン、良く見えるね」
アルカの隣に座って同意したティコの口からも白い息が出される。
リヴァイアサン大祭の夜、2人はエルフヘイムの一番高い所から、天空を駆けるリヴァイアサンを眺めようと大樹に登った。
高度があれば風も強くなり、2人の長い髪も大きく風に泳ぐ。
「ティコ……はい」
アルカは可愛くラッピングされた小さな箱を取り出し、ティコに差し出した。
「わたしに? ありがとう。開けていい?」
嬉しそうに微笑むティコに、アルカは「どうぞ」とにっこり笑う。強い風に飛ばされないようにリボンと包装紙を丁寧に外して、箱を開けた。
「綺麗……でも、どうやってつければ……」」
箱の中には、黒を基調とし、紅の刺繍が施された美しいチョーカー。しかし、つなぎ目がない。
「つけてあげますわ」
ティコは「ありがとう」と微笑んで、アルカにチョーカーを手渡し、今つけているチョーカーを外す。露わになった褐色の首筋には2つの穴があった。
――彼女達にはちょっとした秘密があり、アルカはティコの血を吸う悪癖、というべき趣味がある。かつてアルカは、マスカレイドに魅入られ、救出されて事なきを得たが、吸血衝動が残ってしまったのだ。
プレゼントしたチョーカーを受け取ったアルカは、中心の紅い刺繍のある部分を上に滑らせて、繋がっていたチョーカーを外す。それをつける前に、ティコの首筋にある2つの穴にそっと触れた。――申し訳なさそうに。
「……吸いたいの?」
吸血衝動を気に病む表情をしたアルカに、ティコはくすっと冗談交じりに笑う。
「そういうわけではありませんわ」
アルカは苦笑して、プレゼントしたチョーカーをティコの首に巻き、刺繍の部分を外したときとは逆に、下に滑らせるように嵌めた。
「へぇ……こうやってつけるのね……素敵……ありがとう」
ティコは感心したように呟いて嬉しそうに微笑む。
「どういたしまして。やはりそのチョーカーはティコに良く似合いますわ♪」
アルカは満足そうに笑った。そんなアルカに、平らで少し厚みのある綺麗な紙袋が渡される。
「わたしからのプレゼント。開けてみて」
ティコが微笑んだ。「ありがとう」と笑顔を広げたアルカは、早速紙袋を開けてみると、1冊の本が入っていた。ざーっと簡単に目を通すと、それはささやかな物語が綴られている。
「まぁ、素敵な物語! 凄く嬉しいですわ♪」
本を両腕で胸に抱きかかえて喜ぶアルカ。
ティコは喜ぶアルカを満足そうに見ながら、プレゼントされたチョーカーを大切そうにそっと押さえた。