■リヴァイアサン大祭2012『彩られた君に見惚れて。』
未だ醒めやらぬ祭りの熱気につつまれた街の喫茶店で、ブランシェルとシアラグナはリヴァイアサンの訪れを待っている。穏やかに降り下りる白雪と温かな街の灯り。いつものお気に入りのオープンテラスも、今日は色とりどりのキャンドルで眩く彩られていて。「メリーリヴァイアサン、シャラ」
「はい、ブラン様も……!」
可愛らしく盛り付けたサンドイッチにクレープ、温かなスープ。グラスとカップを触れ合せ二人テーブルを囲めば、真冬の夜の冷たさも特別なものへと変わる。会話と食事を楽しみながらゆるりと酒杯を傾けていたブランシェルは、シアラグナの歓声に空を見上げた。
「ねぇ、見て! 見て!! すごく綺麗♪」
小柄な体をいっぱいにのばして指差す先にはリヴァイアサンが。
夜空を横切る星霊の肢体は悠々と幻想的で、それでいて雄々しくしなやかで。
一年に一度しか見られぬ美しい光景に、竜や蜥蜴が大好きなシアラグナは大喜びだ。思わず席を立ってブランシェルを振り向けば、笑顔とともに赤いスカートがふわりと揺れる。雪とキャンドルの光を纏った愛らしい姿にブランシェルが見とれるうちに、彼女は踊るような足取りのままテラスを下りて大通りへと歩み出てしまった。
喫茶店の面した大通りは、夜とは言ってもまだまだ混み合っている。きっとリヴァイアサンに夢中なのだろう、ふわふわとした足取りのシアラグナが心配で、ブランシェルは思わず歩みを速めた。
「きゃっ……」
「シャラ……!」
折悪しく通りかかった大柄の男とぶつかりふわりとよろめいたシアラグナを、けれど確りと支えたのはブランシェルの温かくも頼もしい腕で。
シアラグナが菫色の瞳を見開けば、視界に広がるのは優しい瞳の金色。
「こら、シャラ。しっかり前見ないと危ないぞ……?」
優しく叱るブランシェルの表情は安堵とも不安ともつかないけれど、少し照れたような笑顔にシアラグナも思わず赤くなってしまって。ブラン様、と細く呼んで俯く可憐な姿に、ブランシェルはほんの僅か、シアラグナを支える腕に力を込めた。
もしもこの時、誰か通りすがりの者が彼を見たとしたら、恋人を見つめるその表情はあふれるほどの愛おしさであると知っただろう。
(「シャラは、必ず俺が守る」)
ブランシェルのそんな固い決意とともに、祭りの夜は穏やかに更けていく。