■リヴァイアサン大祭2012『酒と下戸と、酔っ払い』
がやがやと独特の喧騒に、アルコールの香りが満ちる酒場。キルフェは、成人したばかりのキーストアを誘って来ていた。
キーストアは、野菜中心の軽食や好みの酒の味に満面の笑みを浮かべている。
「ふぅん……やっぱ似合うな」
キルフェが、ふとキーストアの髪飾りを見て呟いた。
(「これを付けてくる辺り、俺も甘いな……」)
その視線が自分の髪飾りに向けられている事気付いたキーストアは、内心軽く嘆息する。
キーストアの誕生日にキルフェが贈ったものだ。朱色の上品なコサージュが、黒髪を華やかに見せていた。
「……お前、マゾなんじゃねえの?」
キーストアが、半分馬鹿にしたような冗談交じりの軽口をたたく。腐れ縁、悪縁としか言い様のない関係の自分をよく誘う気になったな、と笑いが零れた。
「誰かさんが成人したばかりらしいって知ってな、思いつきだ」
7年前に成人しているキルフェが、気だるげに口を開く。
「キルちゃんやさしー」
にやっと口元を歪めて、からかうキーストア。
普段から常に不機嫌そうなキルフェだが、皮肉げな嫌味も「はいはい」と軽く流せるくらいには機嫌はいいらしい。
しかし、顔色一つ変えず飲んでいたキーストアだが、ワインボトルが3本空いた頃――。
流石に飲みすぎだとキルフェが訴えようとした矢先、
「おれのさけら、のめねえってのかよ」
呂律が回らず表情から険が抜けたキーストアが、新たなボトル片手にキルフェに絡みだす。
無邪気で強引な笑い上戸になったキーストアと反比例するように、キルフェの機嫌は急降下していた。
「……あんた、そんな面倒くさい酔い方すんのかよ……」
キルフェは、心底うんざりしたように突き放す。しかし、キーストアは構わず新しいグラスに酒を注いでいた。
――ドサ。
酒を注ぎながら、机に倒れ伏すキーストアがキルフェの目に映る。
「飲みすぎだろが。馬鹿じゃねーの」
酔い潰れて寝入ってしまったのを見届けたキルフェは、悪態をつきながらも微笑ましげな笑みを零した。
「ったく……」
そのまま起こさずに、キーストアを荷物のように抱える。
「きるふぇ……もっろのめぉ……」
夢の中では、まだ飲んでいるらしいキーストアから零れる寝言を聞きながら、
(「もう二度と誘わねぇ……」)
キルフェは、そう固く心に誓って店を出た。