■リヴァイアサン大祭2012『ずっとこうして仲睦まじく咲いていきたい』
「じゃあ、ユツキは生クリーム泡立ててね。あたしがフルーツ切っておくから」ノエルはにこっと向日葵の様に眩しい笑顔で偉そうに指示を出す。まな板にフルーツをを乗せ、次々と手際よく丁寧にカットしながら。さすがは喫茶店の店長なだけはある。
「はい」
ユツキは笑顔で返事をして、ボールを手元に引き寄せた。
(「料理は得意でないけど、お菓子なら……」)
内心意気込んで、丁寧に生クリームをボールに注ぎ、砂糖を加える。
「あー! 生クリーム泡立てる時は氷水に当ててやるの!」
フルーツを切っていたノエルが、包丁を止め、氷水の入ったボールを用意してユツキに渡した。
「あ、はい……」
ユツキは言われた通りに氷水に当てながら丁寧に生クリームを泡立てる。
「告白して、付き合うことになるなんて夢のようでした」
生クリームを泡立てる手は動かしたままユツキが穏やかな声で呟いた。
その声に、フルーツを切り終え、スポンジに苺を並べていたノエルが振り返り、
「夢にしないために、これから何回も何十回も、この日を迎えるんだよ」
別れるなんて考えもしないけど、そう付け足そうとした言葉を飲み込んで明るく笑った。
「もちろんです。どんなに困難なことがあっても、ずっと寄りそっていますから」
「……」
いつになく真剣な表情で言うユツキに、ノエルは何を言っていいか解らなくてその横顔をじっと見つめてしまう。
――その真剣な表情と言葉とは不釣合いな、クリームのついたユツキの頬を。
「となりで笑ってくれるノエルが妻で、本当に良かったと思ってるんです」
告白して恋人になって、更には夫婦という関係にまでなれて本当に良かった、と。
「……」
ノエルは、ユツキの真面目な表情で紡がれる嬉しい言葉を正面から受け止めきれず、
(「丁寧に混ぜていたはずのクリームが、なんでそんなとこに付くんだろうなぁ……」)
――ぺろ。
ユツキの頬に付いたクリームを舐めとるようにキスをする。
それは、言葉よりも明確なノエルの答え――。