■リヴァイアサン大祭2012『雪の祝福』
降り積もる雪がほんのりと周囲を照らす森の中に、クリムとシルの姿があった。リヴァイアサン大祭には、泉が温泉になったり小川に蜜が流れる等、いくつかの不思議な現象がおこる。湖にラヴァーズロードと呼ばれる氷の道が出来るのもその一つ。
共に氷の道を歩き、そして想いを告げ合い、晴れて恋人となったクリムとシル。今はその帰り道だ。
二人はゆったりと歩いていた。ほんの少しシルが先行しているのは、ラヴァーズロードで自分から告白した事実が少し恥ずかしかったためだ。
その後ろを見守るように歩くクリム。前を行く彼女と自らも望んだ恋人という関係になれた、喜ばしい出来事があった後の帰路。しかし今、彼の心の内は複雑だった。
(「……不安はいくつもある」)
人とエルフ、種族が違うが故の寿命差。自分は彼女ほど長い寿命はもっていない事実。
また互いにエンドブレイカー。マスカレイドがいれば、悪い終焉を見れば、例え危険な戦いであっても向かって行くだろう、そんな生活をしている事。
そして何よりも。
(「自分は、彼女に愛されるほどの人間なんだろうか……」)
恋人になれたからこそ出てくる不安が胸を重くする。解決策が思い浮かばないまま、クリムは少しずつ視線を落としていった。
「どーしたの?」
不意に声が響いた。とても聞き覚えのあるそれに、クリムは立ち止まりうつむいていた顔を上げる。
シルが振り返り、上目遣いにこちらを見上げていた。
「あ……いや」
「?」
少し小首を傾げるシル。振り返ったのはちょっとしたいたずら心からで、特に何かあったわけではない。
彼女はしばらくそうして見上げた後、再び前を向いた。周囲に目をやり、雪景色を楽しみながら歩いていく。
(「シル……。ああ、そうだ」)
見上げてくる恋人の青い瞳。離れていく恋人の小さな背中。それを見て、クリムはようやく己の心に気付いた。
不安はやはり尽きない。自分が彼女に愛されるほどの者なのかも分からない。けれど、そんな事はどうでもよかった。迷いなく手を伸ばす。
大切なのは。己の本音は。
(「彼女を、愛したい……!」)
「きゃっ!?」
突然後ろから抱きしめられシルは驚いた。
不意打ちに目を丸くして振り向く。至近距離で優しく笑う恋人と目が合い、彼女の胸はどきどきと高鳴った。
「え、えっと、その、クリムさん?」
名を呼ぶ声も上ずってしまう。
そんな彼女の様子に、クリムはいつもの自分らしくないと思いつつ、それでも愛おしいと想う気持ちは抑えきれない。
勇気を振り絞り、彼は恋人へと呟いた。
「……いつまでも、一緒にいよう」
小さく、けれど確実に耳に届いた囁きがシルの顔を真っ赤に染める。もう一度彼の名前を口にしてから、腕の中で恥ずかしげに彼女も言葉を返した。
「改めて、これからよろしくです……」
消えそうなほどに小さな声。だがもちろん、恋人が聞き逃す事などなかった。