■リヴァイアサン大祭2012『winter of flower garden』
「ぅわ……ぁ……」宵闇の中にほわり浮かぶ、青のプリムラ。紫のローズマリー。
スコルは思わず、感嘆の声を零す。
フラワーガーデン。
「綺麗だな……これも、復興したからこそ、だ」
初めて共に訪れた頃とは見違える、冬の花畑。縁あってステファノが治めることとなったその場所に、再び花を咲かせたいと、ふたり、何度も足繁く通ってはいたが、こうして咲き誇る花々を見るのは、初めてだ。
ふたりでこの特別な夜、互いの色を映したような、あおい花を見ることができて、嬉しい。
ほんの僅か、ステファノが口許を緩めたとき、「!」そ、と控えめに、けれどしっかと掴まれた腕に、少し、驚いた。
スコルの蒼い瞳が、穏やかに和らぐ。
「折角だから、手、繋ごう」
大丈夫、誰も見てないよ。
夜に溶けるように告げられた言葉に、抗うなんて選択肢、初めから、ない。
「ああ、勿論……」
ふと柔らかな笑みを浮かべ、ぽふと触り慣れた頭に手をやって、くしゃり、撫でる。少し癖のある髪が、手袋越しの指先に優しい。
嬉しそうに、どこか無邪気な子供のように笑う頬に、白いものがふわりと降りる。
その冷たさに一瞬身を竦めたスコルは、空を見上げる。首筋に、見上げた先の空と同じ色合いの石が揺れた。
「あ、雪……」
それらしくなってきたな、とやはり嬉しそうな彼の横顔に、思えば、とステファノは囁く。
「お前がGrandiosoに入団して、もう一年と少し経つんだな。時が過ぎるのは早いものだ」
しみじみと告げる声が珍しくて、くすり、スコルも笑う。もう、一年も経っているなんて思えない、と。それどころか。
「もっとずっと前から、傍に居るような気がしてならないんだ。──おかしいよな?」
ちらり、ちらり、舞う白雪。
ふたりの視線が、あおい花の中、絡む。
夏にもこうして、ふたり、あおい花の中を手を繋いで歩いた。
重ねた月日は、あたたかく、いとおしく、ひどく、やさしい。
「お前と出会えて、過ごせて、良き一年だった。──またこうして、この日をお前と迎えられることを願うよ」
「勿論、来年もこの先も、あんたの隣に居たい」
きゅ、と握り直す掌。
「メリー・リヴァイアサン、スティ」
「……メリー・リヴァイアサン。来年も、よろしく頼むな」
ステファノはもう一度、スコルの髪を撫でる。
どこか遠くで、鐘が、鳴る。