■リヴァイアサン大祭2012『鴇色の誓い』
リヴァイアサン大祭の夜。広がる花畑の中を、アズとエイシェンヴェールは共に歩いていた。
美しい花畑の上を、ふわりふわりと雪が舞う。その幻想的な景色を眺めながら、2人はゆっくりと歩く。
「……ヴェー」
彼女の愛称を呼び、アズが振り返った。
そしてエイシェンヴェールに向き直る。
「今日は君に大切なことを伝えようと思っているよ」
アズに話しかけられ、エイシェンヴェールも彼を見つめた。
「以前私が君に、私は彼女の盾だ、この命に代えても守る……と言ったのを覚えているだろうか?」
エイシェンヴェールはこくりと頷いた。
忘れるはずもない。
(「あたしはその言葉をまっすぐに受け取ったのだもの」)
だからこそ彼女は、その次の言葉を待ちわびていたのだ。
「私は回りくどいことは言えない性質でね。だから君に真っ直ぐ伝えよう」
あの時と同じように、アズの思いがエイシェンヴェールの胸に響いてくる。
「エイシェンヴェール、私は君のことがひとりの女性として好きだ。君をこの手で守りたい」
優しくて、真剣な声。
「私の生涯を君に捧げる。この身を盾とし君を守らせて貰えまいか?」
エイシェンヴェールの青いアクアマリンのような瞳を真っ直ぐ見つめながら、アズは彼女のガーディアン、そして恋人になりたいと、そう伝えた。
「……」
それは、エイシェンヴェールの待ちわびていた言葉だった。
ああ、それでもアズの告白は嬉しくて、仕方がなくて。
冷静に答えるつもりが、声よりも先に涙が彼女の頬を伝った。
涙をそっと拭い、エイシェンヴェールはその両手で、傍らにある花を包み込んだ。
人の指先のぬくもりで開くという、不思議な花。その花は、触れた人の想いや願いまでも受け取って、様々な色を伴う淡い光を灯す。
「この花は、あたたかい色かしら?」
アズからの言葉を聴き、喜びと幸せで溢れるエイシェンヴェールの心を映したそれ。咲いた花は、言葉にならぬほど美しい。
「あたしは抜き身の剣みたいだけど、こんな者でも護ってくださるというなら」
エイシェンヴェールは微笑む。
「喜んでお受けします」
想いが通い合う。柔らかな風が2人を包み込み、花も、雪も、彼らを祝福するようにキラキラと輝いた。
アズはエイシェンヴェールの前に片膝をつくと、赤い瞳で彼女を見上げた。
「手を」
そして請われるまま差し出されたエイシェンヴェールの手の甲に、誓いのキスをする。
愛しくて、大切な想いが、触れた部分から伝わっていく。
互いのぬくもりを感じ、笑い合うと、2人は綺麗な空を見上げた。
この人とずっと歩んでいけますように。
そう、祈りを込めて。