■リヴァイアサン大祭2012『雪降る聖夜の中で』
冷えた肌を包む、湯の温かさが、心地好い。ちゃぷ、と水の揺らぐ音が、快い。
星霊リヴァイアサンが空を舞い、小川の水は蜜へと姿を変え、泉は全て温泉と化す、リヴァイアサン大祭。
その日の楽しみは、温泉である。
パーフはそう、断言する。
茹だるまで浸かっているのが良いのだそうだ。
猫はお風呂が嫌いなのだと言う。けれど、温泉が好きな猫が居ても良いのではないだろうか。
長じてから知ったらしい温泉の魅力に、妖眼の斑猫は眠たげな目でふふりと笑うのだ。
──ほら。寒いのが嫌いなのは共通でしょう、と。
ちらり、空より舞い降りた白銀の欠片が、彼女の肩をかすめるのを見て、お、とレイは空を見上げた。
「雪だぜ」
「雪、だね」
ひと片だったそれは、瞬きの間にしんしんと景色を白く覆い、パーフは両の掌を空へ、雪へと差し出した。薄い羽毛のような優しさで降ったそれは、彼女の白い肌に触れると同時に溶けて消える。
それはまるで、不思議な力のようにも見える光景で。
「──……」
あまり感情の表れない彼女の黄金の瞳が、その様をただ、眺める。
その後姿を、レイもただ、見つめて──気付く。ほんの僅か、彼女の肩がふるりと震わされたのに。
見上げたパーフが、蒼の中に藍色深めた雪降る夜空に納得して、再度暖かな湯へ肩まで浸かろうとした、そのとき。
ぱしゃ。
柔らかな水音を立てて、レイの逞しい腕が、パーフを抱き寄せた。
水面にふたりの長い髪が躍って弧を描く。
「……ぱふさん、冷たい」
「レイは、温かい」
触れ合う肌は温泉のぬくもりを受けながら互いの熱を分け合って、視線を絡めれば互い、細められる双眸。
自然に近付いたふたりの影、そして。
「ん」
口付け交わすと思った瞬間、ぺろりとパーフの舌が、レイの唇を舐めた。
瞬時、状況を理解できず固まった彼は、
「……──な、なにを?!」
ばしゃりと大きな水音を立てて、レイは思わず口許を覆う。心なしか、ああまるで猫のようにざらっとしたような、いや、そんなことはない錯覚だろう、だけど、キスより恥ずかしいのは、何故だろう。
彼の頬に温泉の熱だけではない赤みが走って、それを見上げたパーフは、
「にふふふ」
ご満悦。
あまり感情の表れない彼女の黄金の瞳が、悪戯っぽく光る。
腕の緩んだ隙にするり抜け出せば、パーフの長い髪と白い脚がすいと温泉を泳ぐ。その背はまるで、「追ってこい」と誘っているかのようで。
ああもう、猫の気まぐれに、いつも振り回されてばかり。
──でもそれも、嫌いじゃない。
確認した想いが、胸に温かくて。
「……ふ。負けねーぜ」
しなやかな彼女を、彼は追い始める。
ふたりの聖夜は、まだまだ終らない。