■リヴァイアサン大祭2012『幼き日の願い花』
年に1度だけ星霊リヴァイアサンが舞う日。甘い蜜の流れる川に囲まれた場所は、氷で出来た樹が立ち並ぶ森になっていた。
透明な硝子細工のような樹がずらりと並んでいる。
「一人で咲き誇ることなど出来はしないのでしょう」
人も、花も、とレラが、手を伸ばせば容易に届く花の蕾を見つめて呟いた。
「……その通り、だろうな」
隣に居るゼルアークも小さく頷く。
記憶に残る者たちは、決して一人ではなかった。誰かと関わることで、それは記憶に残る程咲き誇るのだ。
ゼルアークとレラの視線が同じ蕾に重なる。
「……」
レラが慈しむように花に手を伸ばした。
蕾に指先からぬくもりが伝わると、星のような花が目を覚ます。
それはまるで、夜空にきらめく星のよう。
「夢が少し、叶った気がします」
目覚めた星の姿に、空に手が届いたように思えたレラが微笑んだ。幼き日に手を伸ばしても届かなかったあの空に届いたような気がして。
「アークさんは、幼い頃に夢はありませんでしたか?」
自分の願いは、ゼルアークが声をかけてくれた事で叶ってしまった。ならば手伝いくらいはしたい、と。
「俺の誘いは只のきっかけだろう」
俺も1人だったら此処には居なかった、とゼルアークは笑う。
「幼い頃の夢か。……背を任せられる、好敵手も兼ねた者。共に高みを目指せる者に焦がれていたな」
柄にもなく星にも願った、と零し、
「つまりは――叶っている」
隣のレラに微笑みかけた。このレラこそ、ゼルアークの望んだ『相棒』なのだから。
「……有難う」
ゼルアークは、夢だった相棒に柔らかく笑って感謝を口にする。
「いえ、こちらこそ有難う御座います」
レラも改めて、今日夢を叶える切欠をくれた相棒に礼を言って微笑んだ。
レラの望みは今日、ゼルアークが叶えてくれた。ゼルアークの望みも既にレラが叶えている。
「……はは」
「ふふ……」
お互いの願いを叶えたのがお互いだと知ると、2人に穏やかな笑みが広がった。