■リヴァイアサン大祭2012『白藍恋夜』
天空に星霊リヴァイアサンが舞う夜。キリィはワインを片手に、どこか所在なげにグラスを傾けている。
そして時折キースの方を見るも、すぐに視線を逸らしてしまう。
そんなキリィの様子を、少し面白そうに見つめるキース。
キリィが落ち着かないのには訳がある。
なぜなら、今キースと二人きりでこの部屋にいるから。
大切な人との、とてもとても大切な時間。
嬉しいのに恥ずかしい。
そんな気持ちで一杯になってしまい、どうしていいのかわからなくなってしまう。
だから大切な人の顔を見るのも恥ずかしくてできない。
困り果ててグラスを傾けてみるも、やはり落ち着かない。
このままじゃ……どうしたら。と思ったその時。
そっと自分と彼女の額を合わせ、ゆっくりその手を取りながら彼はこう囁いた。
「俺の目を見て、キリィ」
その行為と言葉に驚き、慌てて視線を外そうとするも、キースの手がキリィの頬に添えられていてそれもできない。
「何で逸らすの?」
と、言葉を続けるキース。
少しして、キリィがぶっきらぼうにぼそっと。
「……恥ずかしいから」
とだけ呟いた。
そんな様子が可愛らしくてたまらない、なんて思っていたりいなかったり。
キースは少し微笑みながら、愛の言葉を口にした。
「俺はキリィのこと好きなんだけど」
わかってはいるけど、言葉にされるととても恥ずかしい。
恥ずかしいけど、とても嬉しい。
それは自分も同じ気持ちだから。
「……私もキースのコト……好きだけど」
口にしつつも、キリィはつい視線を逸らしてしまう。
「じゃあ俺の目を見て」
そうキースは囁くと、己の指を彼女の指に絡ませ、じっとキリィの顔を見つめた。
「うぅっ……」
少し呻きながら、ゆっくりと、ぎこちなくではあるがキースに視線を合わせる。
その顔を朱に染めてながらも、こちらを見つめる瞳を見ていると、彼の心は幸せな気持ちで一杯になっていく。
ああ、自分は確かに彼女を愛している。
その瞬間、お互いの体の中で何かがパチっと弾けた。
それは、新鮮で甘くて、そしてどこか切ない感覚。
今まで体験したことのない感覚、でも確かに今お互いの中で同時に感じたもの。
この感覚を忘れたくないと思ったのはどちらか。
「キリィってきちんと目を見てくれないね?」
「……私、人と目を合わせるの苦手だから」
「……俺が相手でも?」
そんな甘く、少し意地悪な言葉のやり取りも、幸せなひと時。
「キースの意地悪……」
彼女から思わず零れた言葉に、くすりと優しい笑みが零れるキース。
そしてゆっくりと、紅く濡れた唇へ自分の唇を重ねていく。
少し驚いてビクっと肩を揺らしながらも、目を閉じてぎゅっと彼の手を握り返すキリィ。
パチパチと薪のはぜる音だけが響く、静かな部屋。
二人だけの、神聖で清らかな誓いの儀式を思わせるその一瞬。
失いたくない、と思ったのはどちらなのか。あるいはどちらも、だったのか。