■リヴァイアサン大祭2012『Viktig×Hverdagenuforanderlig』
大祭の日にニクスはスピネルの実家に招かれた。そこで二人は、彼女の両親と出会った。実はスピネルは、両親と顔を合わせるのは久方ぶりの事で、久々の再会は冷静な彼女でも流石に緊張したらしい。
(「まだ少し、体が硬いような気がするな」)
テーブルの前に座っているニクスは、炊事場に立って調理しているスピネルの背中を見つめながらそう思った。
ともあれ、彼女の婚約者としてご両親に挨拶できたのは良しとしよう。
今、こうしてニクスが僕の家にいるっていうのは……何というか、少し恥ずかしいようなくすぐったいような、そんな感じがする。
ああそうか、ニクスとは戦いや旅団の中でしか一緒にいられなかったからな。旅団で一緒にすごすのも悪くはないけれど、僕の大切な場所に来てくれているって事がいいのかもな。
両親との挨拶は色んな意味で緊張したが、まあ上手くいってよかった。と言っても、多忙な両親はすぐに仕事に行ってしまったが。
そんなことよりも、ニクスにおいしい料理を振舞わないとな。
よし、これで最後の隠し味を入れて……。
それから間もなく、スピネルがケーキやシチューやターキーなどの料理を運んできた。
愛する人が張り切って作ってくれた料理だ。世界一美味しいであろう料理がテーブルに並んでくるだけで嬉しくなってきた。
「おぉ、これは豪勢だな。随分腕が上がったんじゃないか?」
するとスピネルは少し胸を張って答えた。
「ニクスに美味しく食べて貰えるように、頑張ってるからな」
スピネルが自分のために努力してくれている。その言葉もまた嬉しかった。
「それじゃあ一緒に食べようか、いただきますっと」
「ん、いただきます……」
二人は食事の前の挨拶の言葉を交わすと、スピネルはどこか落ち着かない様子でシチューを口に運ぶニクスをじっと見つめていた。
「お、美味しいか?」
するとニクスは、柔らかな笑顔を浮かべながら答えた。
「んん、流石だな。めっちゃ旨い。毎日これだったらなぁ」
「そ、そういってくれると嬉しい……」
スピネルは胸を撫で下ろし、そして湧き上がってくる喜びと共に自分も料理を口にした。
メインディッシュを平らげた後で、お待ちかねのケーキもニクスが一口、口にして。
「こんなケーキまで作れたのか。味もおいしいし完璧だな」
ニクスは素直に感嘆してケーキを賞賛すると、おかわりを要求した。
「そ、そうか。そう言ってくれると頑張った甲斐があった」
実を言うとお菓子は苦手だったが、この時の為に練習してよかった、と思った。
一緒に過ごす時間と共に胸が温かくなっていく……。
そして最後のケーキを食べ終えた後でニクスは言った。
「お前と初めて会ってから色々な事があったな。今まで本当にありがとうな。それと、これからも色々あるとは思うが……よろしく」
「うん、僕もありがとう。これからも宜しくな」
愛する人からの言葉は、『ごちそうさま』よりも嬉しかった。