■リヴァイアサン大祭2012『初めてのデート?』
「メリー・リヴァイアサン。これはもう飲んだかい?」「えっあっ、まだですまだです! おいしそう、いただこうかな」
ハニーバザールのそこかしこから掛けられる声に、ふらふらあてもなく探索・散策・お買い物。
そして。
「わ、もー。オウルくん、ちょっとこれ持っててくれる?」
手渡すのは買ったばかりのホットレモネード。あたたかな湯気に、眼鏡がくもってしまった。
ん、と危なげなく串焼きを持ち替えて手を差し出す君に、甘えてしまう。
──お姉さんらしく、しようと思ったのになあ。
「お、うまそう。キールも食べるか?」
「え、あ、うん!」
ちょっとした気遣いなんて、落ち着いた彼の方が慣れている。年下だなんて感じさせない、友達のような──大切な友達のような、この空気や距離感が、丁度いい。──心地好い。
ふたり分をひとつのお皿に盛ってもらって、またふたり、バザールへと繰り出す。
「じゃあほら、オウルくん、あーん♪」
「あー……って、ちょ、キールこれ待っ、」
ほっかほかあっつあつの湯気立つまぁるい粉ものを口許ギリギリに差し出してみれば、彼の慌てる顔が見られて、少し、満足。
吹き冷まし、口にするのを待ってから、自分もと。はふと熱さを逃がして幸せを噛み締める。
「あっねぇオウルくん、あれなんだろ?」
「お、おいおい、走らなくたって店は逃げないって──……」
手を取りコート翻し、だってお祭りの夜をめいっぱいに楽しみたい。
色鮮やかな思い出を、一緒にたくさん、重ねたいと思えるから。
ふと足を止めて、振り返る。にこり、笑う。
「今更だけど、オウルくん」
「ん?」
「メリー・リヴァイアサン♪」
突然の、そして遅ればせの挨拶に、少し、意味を考える。
こうしてキールと共に歩くことに全く気負いはないし、楽しいと素直に思える。
相手の表情を見れば、きっと相手も同じ、なんだろう。
だからきっと。
「メリー・リヴァイアサン、キール」
この挨拶は、『これからもよろしく』の、代わり。
よし、と息吐いて、軽い足取りで踏み出す。
「あの屋台まで競争な、キール! 負けた方が奢り!」
「ええっ? ずるい、負けないよ!」
まだまだ今は、このリズムを楽しもう。