■リヴァイアサン大祭2012『幸せの魔法』
藍色の寒空を広い海に例えれば、リヴァイアサンが舞う姿も、まるで泳いでいるようだ。そんな、星霊がゆっくりと舞う空の下。
エルフヘイムの大樹の元で、ランドリックとリューディアは、互いに始まったばかりの恋を噛みしめるようにして、雪の奇跡を楽しんでいた。
二人共、リヴァイアサン大祭は何度か経験している。だが今日は、毎年のことであるはずの事が、特別な宝物のような気がして、不思議な気持ちでもあった。
白の魔品師ランドリックは普段は伏せがちな瞳をしっかりと開けて、隣の恋人の姿をその視界に焼き付けていた。
彼にとっての、太陽のような存在であるリューディアという存在。
未知なる感情の意味を、彼女はいとも簡単にランドリックの元に届けてくれた。
何物にも代えがたい、あたたかな光。
そんなリューディアの肩に、ランドリックの大きな手が静かに添えられた。そして、彼は、ゆっくりと腕の中に彼女を導き入れる。
「…………!」
リューディアの黒い瞳が、ゆらり、と揺れた。
ランドリックの行動に、少しの驚きがあったようだ。
あっという間に彼の腕の中に収まってしまった自分を改めて、リューディアは頬を染めた。
『恋人』と言いきってしまうにはまだ、気恥かしさがある。
「照れるのは仕方ありません。恋を始めたばかりなのですから。……こうして少しずつ、お互いの想いを紡いでいきましょう、リディ」
「はい……リックさん」
近距離で交わされるそんな言葉。
くちびるから漏れる吐息は、冷たい空気に抵抗して真っ白だ。それがぶつかりあって、混じり合って溶けていく。
瞳と瞳が、重なった。
リューディアはそれに、僅かな心のゆらぎを覚えて、そしてゆっくりと自分の瞳を伏せる。
彼女の睫毛がかすかに震えているように見えるのは、緊張からくるものなのか、それとも――。
寒いはずの外気が、あたたかく感じた。
彼らの足元にある二つの影は、ゆっくりと近づいて、ひとつとなる。
触れ合うぬくもりと、確かな感触。
それをお互いに感じ合って、じわりと頬がまた熱を帯びていく。
うっすらと瞳を開けば、目の前のランドリックもまた、わずかに頬が赤かった。
「好きですよ、リックさん。これからもずっと、私のそばにいてくださいね」
ほんの少しの照れ隠しと、幸せな気持ちが混ざり合って、リューディアはそう言いつつほほえんだ。
その笑顔を見て、ランドリックも同じように笑みを浮かべる。そして、改めての言葉を紡いだ。
「あなたが好きです。私の傍でいつまでも笑っていて下さいね……。死が、二人を別つまで」
星霊が空から贈るもの。
それは白銀の奇跡と一緒に降り注がれる、幸せの魔法なのかもしれない。