■リヴァイアサン大祭2012『大祭の陰の小さな祝い』
「あれがリヴァイアサンか……」夜、雪がちらほら舞う中、空を見上げて呟いた。
ロイにとってリヴァイアサン大祭は初めての経験。
空を優雅に舞う雄大な姿に感心していると、背後から妙な歌が聞こえてくる。
「おめでとう〜さんじゅう〜、おめでとう〜みそじ〜♪」
「……ちょっと待った、何、その歌」
ロイが振り返ると、ガウラが雪で円筒形を大小2段重ねたものを、ぺたぺたと作っている。
「30代突入おめでとうの歌。30代へようこそ!」
相棒である彼女はロイより2つ年上で、すでに30代に足を踏み入れている。
そのせいか、自分と同年代の同胞が増えたのがひどく嬉しいらしい。
満面の笑顔に様々な色を乗せて、ロイへ向けてくる。
「――それで、何作ってんの?」
「誕生日のケーキの代わり」
言いながら、彼女は懐から取り出したロウソクを雪像に刺していく。
そう。言われてみればなるほど、2段重ねのケーキに見えなくもない。
「昼間食べたケーキじゃ小さくて、ロウソク30本刺せなかったしね。それに、夜の方が綺麗でしょ」
火を点け始めると、間近に光源が出来たせいか、辺りの闇が濃くなったように感じる。
ロイの誕生日は、これまで巡ってきた都市国家の多くで大祭とされる今日だ。
天涯孤独の身の上ゆえに、子供の頃は誕生日などというものを祝ってもらった事もなく。
年を取るにつれ、自身の境遇と対照的に華やかな大祭を疎ましく思ったりもした。
(「今はさすがに、そこまでどうってことはないけどな」)
「さあ、出来た!」
ロウソクすべてに火を点すと、達成感溢れる顔でガウラが振り返った。
「改めまして、誕生日おめでとう、ロイ」
白い息を吐き、雪いじりで赤くなった指を広げて笑顔を向けるガウラ。
その全てが、自分のためにしてくれているのだと思えば愛おしい。
(「『お仲間歓迎』というのも入ってるんだろうが」)
こうして笑顔で祝われると、やはり嬉しくて。
来年も、出来ればその先も。
彼女が祝ってくれることを、ロイは心の中でそっと祈るのだった。