■リヴァイアサン大祭2012『私たちだけの時間』
ある屋敷の上層階バルコニー。二つの人影はエルフヘイム上空を優雅に泳ぐ星霊リヴァイアサンを見上げる。
下では年に一度の『リヴァイアサン大祭』で、盛大に催されている祭りの騒ぎが聞こえてきそうなものだが、静かに降り注ぐ雪が全ての音を飲み込み、ここにいる二人だけの特別な時を閉じ込める。
「寒くないですか?」
傍らに寄り添うサキへ声をかけるプライド。
「ええ」
そうサキは言うものの、そっと抱き寄せるように肩に手をやると冷たい。しかし、それを言い出せはしなかった。
なかなか二人きりになれずに、もどかしく思っていた。だからそれを壊すような事を言えはしない……。
だが、それを察してなのか、サキの手は自分の肩を抱くプライドの手に添えた。
「貴方と過ごす時間はとても大切……幸せよ」
と、自分の事を慮ってくれるプライドの優しさにサキの顔はほころぶ。
「ええ、私もこうしてサキ君と居られるのは幸せです。願わくば、このまま時が止まれば良いと思うほどに」
だが、それは叶わない。わかっているからこそ言葉に出さず、託す願い。
聖夜ならば、叶えてみせろ! と……。
その時、サキの頬に一筋の雫が流れた。
途端に肩を抱いていた右手を離す。
「すいません……痛かったですよね」
プライドは自分の思いを呪った。
せっかく二人でいられるこの大切な時を台無しにしかけてしまったのだ。
「ちがうの……」
離れたプライドの右手を、このまま離れたら永久に離れていってしまいそうな彼の右手をサキの左手が繋ぎとめ、そのまま身体を彼に預けた。
「もっと一緒にいたいと思うのはわがままかしら?」
そうだ……。
聖夜ならば……などと願う必要はなかった。
「そのわがまま、私が叶えてみせます。どんな奇跡でも作り出すことのできない、私たちだけの時間を過ごしましょう」
私が……叶えればいいのだから。
静かにサキを抱き上げると仄暗く照らされた部屋へ戻る。
二人の愛も、絆も何度も確かめるために……。