■リヴァイアサン大祭2012『抱えきれない幸福』
甘い蜜が流れる小川の畔に、一夜のみ開かれたバザール。甘い香りで包まれたそこには、楽しげな声と笑顔が溢れていた。「美味しそうー♪」
「では、食べてみましょうか」
セシリアが満面の笑みで口を開くと、ディルアークが微笑んで、店主に2人前のお菓子を注文する。
「わー! あのぬいぐるみ可愛い!」
黒いくまのぬいぐるみを前に瞳を輝かせるセシリアの横から、ディルアークがそのぬいぐるみを購入した。
「え、ディルアークさん? えと……」
「ハニーバザールの記念ですよ」
お菓子は食べたらなくなってしまうでしょう? とディルアークが微笑む。
「お祭りごとの季節は財布の紐が緩くなりがちですが……」
2人で沢山買い物を楽しんだ帰り道、ディルアークが誰にともなく、小声で呟いた。
「ふふ、楽しかったー♪」
セシリアには、ディルアークの呟きが聞こえなかったのか、満ち足りた幸せな笑顔を浮かべる。
(「まあいいかな、と許せてしまうのは、明らかに君の所為ですね」)
幸せそうなセシリアを見つめて、ディルアークの頬が緩んだ。
「わたしのおねだりで、一緒に来てもらいましたが……楽しかったですか?」
セシリアが少し遠慮がちに口を開く。
「普段あまり、おねだりをされないし、僕も気が利かないものですから……」
ディルアークは申し訳なさそうに苦笑した。しかし、セシリアの少し不安そうな表情は晴れない。
「……そうやって嬉しそうに買い物を楽しんでくれると、自分のことのように嬉しいです」
本当ですよ? と、今度は、安心させるように笑う。
「折角の年に一度のお祭りです、買い忘れはありませんか?」
優しく問いかけ、「正直これ以上は持てないかも知れませんが……!」と続けたディルアークに、くすっと小さく笑って「大丈夫です」と、セシリアは答えた。
両手いっぱいに荷物を抱えて、少し前を歩くディルアークに、セシリアの悪戯心が湧き上がる。
「どーん♪」
セシリアが、ディルアークの不意をついて、ギュッと腕にしがみついた。
「えええええ!? 何、何事ですか!?」
もしかして足を滑らせたとか、大丈夫ですか!? とディルアークは荷物を揺らして慌てる。
「ご、ごめんなさい! その……あの……とにかくごめんなさい!」
我に返ったセシリアが平謝りした。
(「でも、やった事に後悔はしません」)
セシリアは、謝りつつも、内心ぺろりと舌を出す。触れ合う腕のぬくもりが心地良いから。
「……え? 別にそういう訳ではない?」
滑ったり転んだときのような焦りは微塵もなく、必死に平謝りするセシリアを見たディルアークは、じゃれついてきてくれたのだ、と理解した。
「ああびっくりした、でも君が無事なら良かったです。……それではそろそろ、帰りましょうか」
ディルアークは穏やかに微笑みながらも、うっすら頬を染める。
(「早くこの荷を置いて、ちゃんと君を抱きしめたい」)
腕の温もりを感じて――。