■リヴァイアサン大祭2012『蕩ける湯の中で』
彼の鼓動に頬を寄せ、上気した顔で、彼女が彼を見上げる。「な、なに??」
「……アデル……」
小一時間前。
大祭の1日をふたりでめいっぱい楽しみ、遊び疲れたアリカ達が目に留めたのは、この日、都市国家中に姿を現す、小さな温泉。
「ね、アデル」
彼の袖を引いて、彼女はおずおずと誘った。
「今日は一杯遊んで疲れたし、少し、休んでいこ?」
「あ、いいね!」
一も二もなく、彼も応じる。
折角出来る温泉だ、それにこのサイズなら、貸切状態。ゆっくり羽を伸ばすことができそうだ。
お互いに水着に着替えて、早速並んで湯に浸かった、までは良かったものの。
(「う……。ちょ、ちょっと」)
(「水着着てるとは言え、恥ずかしいわ……」)
お互いに、お互いが、直視できない。
(「落ち着け落ち着け! お互い水着着てるし、水着は夏にも見てるだろ……!」)
彼は必死に自分へ言い聞かせながら、明後日の方向に顔を背け。
(「でも、折角だし……。こういうこと、できる機会ないもん」)
彼女は俯きながら、ふたりで共に入る温泉に『浸り』。
しばらく、沈黙が続いたあと、「え!?」不意にアリカがぴとり、アデルの胸に寄り添った。
彼女の長い黒の髪が、湯に浮いて泳ぐ。鼓動を聞くかのように瞼を下ろす彼女。
「な、なに??」
戸惑う彼を、頬を紅潮させた彼女が見上げて、そっと声を零す。
「……アデル……」
──ただ、ただ。
──あなたと一緒に、居たい。
見つめ合う、ふたり。
「あ、アリカさん……? どうか、した……?」
普段とは違う視線、普段とは違う雰囲気に戸惑いつつ、アデルが問う。
と。
かくん、とアリカの視線が落とされた。
「……?」
訝るアデルが覗き込めば、
「……きゅう……」
「……あれ? わぁアリカさん! 大丈夫!?」
目を回した彼女!
諸々にのぼせてしまったらしい彼女を抱え上げ、慌てて介抱を行った彼が。
アリカ自身が温泉での出来事をなにひとつ覚えていないことを知るのは、もう少し、先のこと。