■リヴァイアサン大祭2012『Il primo passo』
ずっと気になっていた。エルトはリヴァイアサン大祭の特別な日に、彼にプレゼントを渡そうと決めていた。
(「気に入ってくれるかな?」)
待ち合わせの場所に向かえば、木にもたれて寛いでいるクラスティーダがいた。
いつも通りの、のんびりとした様子。
勇んで彼の前に来たエルトだったが、しかし緊張のためせっかく用意したプレゼントをなかなか渡せずおどおどと視線を彷徨わせてしまう。
「え、えっと、ク、クラス、あのね……」
リヴァイアサン大祭ということで、今日ばかりは武装していないエルト。
エメラルドの瞳はあっちこっち泳ぐが、たびたびクラスティーダを映して揺れる。
クラスティーダは自分からは動かない。だがそれは、そうすればエルトが本来の元気娘の良さをフル稼働させて積極的になろうとする。
肝心なところで羞恥心が勝ってしまうのが可愛らしいのだが。
何も言わず微笑を浮かべるクラスティーダは、自分が話し出すのを待っているのだ、とふと気付いたエルトはそして遂に思い切って勢いよくプレゼントを彼の目の前にずいっと差し出した。
「こっ、これ!」
「はい」
すると、同じタイミングで彼女の眼前に綺麗にラッピングされたプレゼントが示された。
クラスティーダはエルトからのプレゼントを悠々と受け取り、囁く。
「メリーリヴァイアサン」
悪戯っぽい笑みはやや意地悪くも見えたが、語りかける言葉は優しい。
エルトはといえば、すっかり予想外の彼の行動に、いまいち事態が把握出来ずにぽかんとしてしまう。
「え、え……? ボクに? あ、ありがとう」
反射的に受け取るエルト。
ああ、のほほんとした昼行灯に見えて、その実こんなふうにイニシアチブを握っているのが憎らしい。
けれど、好き。
ちょっと意地悪なところも。
すっと立ち上がったクラスティーダ。
呆気にとられているエルトへと、不意打ちの口付をし……。
「お礼ですよ」
ラピスラズリみたいな藍色の瞳がにんまりと微笑を浮かべて。
やっぱり意地悪だ!
エルトの瞳が真ん丸に見開かれた。
何しろファーストキスだったのだ。
混乱しないわけがない。卒倒しそうだ。
いずれにせよ、忘れられない記念日になりそうだった。