■リヴァイアサン大祭２０１２『I belong here with you』
リヴァイアサン大祭、それは特別な日。エルフヘイムのエルフ達は、この日をパートナーと過ごして互いの絆を再確認し、一緒に世界の平和を祈るのだという。
隣に今、彼はいないけれど……共に過ごそうと約束したあの言葉は嘘では無いと、思う。
故にティファリスは、唇に慣れない紅を引き、彼が似合うと褒めてくれた青い服に腕を通し、髪に花を飾る。
そしてこの夜を共に過ごすために、雪が舞い降りるバルコニーへ出て、空を見上げた。
ティファリスの頬を撫でる、冷たく澄んだ空気。柔らかな雪が降り積もる。
彼の人も、何処かで同じ夜を見上げているのだろうか。それとも戦いに明け暮れている？
（「私はお前を護りたいが為に強くなろうと決めたのに、死地へ向かったのはお前だけ。こんな場所で待つだけだなどと、なんて情けない」）
ティファリスはそっと息を吐き出した。
どんな顔をして出迎えれば良い？ どんな顔で出迎えても、彼はあの苦笑で返すだろうが……その顔が、とても恋しい。
見送りも出来なかった私が言える言葉では無いけれど、と小さな声で呟く。
「どうか、無事で」
彼からの贈り物……左袖の服の下にはめた、グリフォンの腕輪を衣服の上から撫でて、ティファリスは祈った。
――まどろみの中、心地よい声を聞いた。
そう感じ、ミハエルは薄く瞼を開こうとして、身体を震わせた。
どうやら身体が冷えてしまったようだ。す、と首に巻いたストールを正す。
彼は今、アマツカグラの救貧院で壁に背を預け、得物を抱いて休息を取っている。
寒さで一瞬だけ覚醒した意識。重い瞼を再び閉じようとして、ふと、左手首の緒に視線がいった。
彼女……ティファリスのことが胸に浮かぶ。
思えば、身を包む暖かなこのストールも、ティファリスからのプレゼントで。
そう言えばリヴァイアサン大祭か、とミハエルは思い出した。
本来ならば、今頃は彼女と一緒にいた筈だ。特別な日を、共に過ごそうと約束をした。
（「彼女は約束を反故にした余に幻滅しているか、それとも、私の帰りを待っているのか」）
彼女の金の髪、紫の瞳、顔や声を思い浮かべる。離れていても、自分はこうして彼女のことを考える。
さて、帰ったら如何してやろうか。
そんな風に思い、自嘲、苦笑、微笑みがない交ぜになった表情と、よくわからない感情を抱きつつ、ミハエルはストールに口を埋めて呟いた。
「――メリーリヴァイアサン、ティファリス」
