■リヴァイアサン大祭2013『宵帳の蜜語』
ロレッタの頬に、白雪がひとつ舞い降りた。――このエルフヘイムの空を水の星霊リヴァイアサンが泳ぐのは、このリヴァイアサン大祭の日だけ。
そんな特別な事がさらに心地良いのは、傍らを歩く愛しい彼――アルトの存在があるからだろうか。
唇を緩めるロレッタに気付いて、アルトも自然と笑いかけた。
「今日は楽しかったね」
家路へと歩む街灯の下、いい気分転換になったかな、とアルトは呟いた。
その言葉に、ふとロレッタは自身が赴いた先の勇者との戦いに思いを馳せる。
厳しく熾烈を極めた戦場。気を弱く持ってはいなかったが、それでもこうして戻って来て、気付いた。
繋ぐ掌の温度、白く溶ける吐息。そして隣にいるアルトの横顔に、ロレッタは思う。
……君と一緒は、やっぱりとても、安心する。
そう思い微笑む彼女の瞳を、不意にアルトが捉えた。
「お前が無事に帰ってきてくれて、本当に良かった」
そのまま思い起こすように、アルトはゆっくりと少し空を仰いだ。
――口では大丈夫、と言っても、強い不安は拭えず。
もし、何かあったら。
……もし、お前に何かあったら。
夜も寝付けず、仕事を詰めて過ごした時間。
離れていた僅かな時が、ずっと長く感じた。
「また逢えるって信じてたけど、……やっぱり心配だったよ」
ゆっくりと、一つ一つ零れたアルトの吐露に、ロレッタは瞬き息を呑んだ。
自分の弱さを隠してしまい易い彼が、不安という感情と真っ直ぐに向き合うなんて。
珍しくもあり、それだけに――。
「暫くは、俺を置いて危ない所に行かないで」
眉を下げて、笑う。
その表情、言葉、そして想いには飾りも偽りもないのだろう。
そんな真摯なアルトの視線を受けて、ロレッタはふわりと微笑んだ。
「……私はきっと、これからも終わりを護るために戦う」
甘やかすように、愛しい人の名を呼んで。
「それでも、君が居なきゃ立てない」
君が拠り所だから帰って来られたのだから。ロレッタは重ねたままの掌を優しく包んだ。
「アルトが私の心の、一番の支え」
彼が吐露したように、ロレッタもまた想いを紡ぐ。唯一の存在なのだと、愛しい人をそっと見上げて、問う。
「――これからも、信じてくれる?」
灰桃の双眸が、アルトのそれを見返した。
「もちろん、これからも」
惑うことなく強く頷いたアルトに、迷いはない。
そうして、俺の事も信じて貰えると嬉しい、と願いを返した。
「俺にとってもお前は、掛け替えのない存在なんだから」
――じゃあ、ずっと抱き締めててね。
――ずっと、お前を抱き締めているよ。
そっとはにかみ笑うロレッタの唇に、アルトは優しくキスを落とす。
永遠を誓うように
絆を想うように。
決して離れない。
小さな甘えに、約束を。
雪降る夜の、二人だけの蜜語。