■リヴァイアサン大祭2013『幸せの時間』
シュー! シュー!薪ストーブの上に置かれたヤカンが鳴く音だけが室内に響く。時折、パラ、と本をめくる小さな音が聞こえるだけの静かな部屋。
外では賑やかな声が溢れ返っているだろうが、この空間だけ切り離されてしまったかのように静かだった。
ソファで読書をするレンリ。その太股から微かな寝息が聞こえる。レンリに頼み込んで、膝枕を借りているクロウのものだ。
(「……あったかい」)
ぼんやりと浮上したクロウの意識は、温かく優しい何かが頭を撫でてくれているのを認識する。
クロウは、起きていると悟られないよう、うっすら瞳を開いた。
(「――珍しい」)
薄く開けられた瞳に映ったのは、幸せそうにクロウを撫でるレンリの姿。普段は滅多に感情を表に出さない彼が幸せそうに微笑んでいるのだ。だから、最初に感じたのは『珍しい』。
視線は手元の読んでいる本に注がれているが、口元が柔らかい。目元も優しい。
もう一度状況を認識するクロウの胸に、徐々に幸せが湧き上がってくる。
(「俺が起きていたのならば、絶対にしてはくれないだろうな……」)
こんなに優しく頭を撫でてくれたりしないだろう、と。しかも、幸せそうに微笑んでいるのだ。恋人のそんな顔を見て喜ばない者は、まずいないだろう。クロウも、幸せが溢れて頬が緩みそうになるのを堪えるのに必死だ。
――パラ……。
ページがめくられる小さな音。左手はクロウを撫でて塞がっているのに、本を持つ右手の親指だけで器用にページをめくっている。
幸運な事に、レンリの視線は相変わらず彼の手にしている本に注がれていた。クロウが薄目で様子を見ている事に気付いていない。
(「もう少し、このままで……」)
クロウは再び、うっすら開けていた瞳も完全に閉じる。幸せを噛み締めながら。
頭を優しく撫でてくれる温もりは、瞳を閉じていたって分かるから。その幸せそうな空気は、しっかり感じるから。
――この幸せが1分でも長く続きますように。