■リヴァイアサン大祭2013『幸せのかたち』
リヴァイアサン大祭の夜。ニノルダとリディアは、とある屋敷のパーティに参加していた。そうして夜も大分更けて来た頃、何気なく周囲の賑わいの輪から離れていたニノルダは、ふと窓の外へと目を向けた。すると、疲れを見せ始めていた瞳が急に輝く。
「リディア」
名を呼ぶと、隣に佇んでいた愛らしい恋人がどうしたの、と尋ね返す。けれど、
「おいで」
彼女の問いには答えず、楽しげに瞳を緩ませて手招きをするニノルダ。彼が向かう先のバルコニーには何もないように思える。首を傾げ、不思議に思いながらもリディアは彼の元へ歩み寄る。
けれど、急く思いを抑えきれなかったのだろう。待ちきれなくなったニノルダは、遅れて歩く彼女の細い肩をぐいっと引き寄せた。
途端にリディアの胸は高鳴る。頬が熱くなっているのに、彼は気付いただろうか。肩から伝わる優しい温もり、そして言い様のない幸福に身を包まれて。リディアはそっと、その温もりをもたらす肩に頭を寄せる。
そこへ空を指差しながら、はしゃぐニノルダの声が降りてきた。
「ほら、上見てごらん」
リディアは言われるがまま、空を見上げた。
そこにあったのは、星の海を泳ぐ星霊リヴァイアサンの姿。
このエルフヘイムの地でも、年に一度しか見られない幻想的な光景。それが二人の頭上に、目の前に広がっていた。凛とした星霊が大きく波打つように身体をしならせながら星空を泳ぐ様は、雄大で、美しい。
「綺麗ね……」
「うん。絵本の一頁みたいだ」
思わず感嘆の息を零すリディアの隣で、ニノルダは楽しげに笑っていた。
――こんなに希有な光景が見られる特別な日。そして傍らには、大事な人。
不意にリディアは空から目を離した。そしてそれに気付いたニノルダと自然と目が合うと、ふわりと花咲くように微笑んだ。
「こんな綺麗な景色をニノルダの傍に居ながら見られるなんて、私……世界で一番幸せよ」
飾ることがない、心からの本当の気持ち。
そんな彼女の言葉を受けて、僅かに息を呑んだニノルダは少しだけ肩を竦めた。
「なんていうか、リディアは僕を口説くのが上手いよね」
敵わない、と笑う彼を、リディアは上目遣いに見上げた。
「本当の事を言ってるだけよ。……ニノルダは違うの?」
問われ、ニノルダはますます困ったように眉尻を下げた。そして降参、とばかりに片手を顔の横に挙げてみせた。
けれどリディアを見つめ返すその表情は、誰よりも優しいものに彼女には思えた。
そうして手を下げて、ニノルダは静かに唇を動かす。
「僕も幸せだよ。……今までの人生の中で、多分一番」
微笑みと共に紡ぎ出された言葉。
そのひとつひとつがゆっくりとリディアの耳に、心に伝わって。彼女は嬉しそうに微笑んだ。
だから溢れる愛しい気持ちを込めて、愛しい彼にぎゅっと抱きついた。
空舞う星霊は、穏やかに見守っていた。
……寄り添い笑い合う二人の、幸せのかたちを。