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2人でリヴァイアサン大祭

火煙崇灰・カザリ
空望む栗鼠・チナ

■リヴァイアサン大祭2013『願いの丘で、二人』

 一面の銀世界。柔らかく雪が降り続く丘。この丘は、年に1度だけ半実体化して姿を見せる星霊リヴァイアサンが、最も接近すると言われている。
「去年は確か、雪で出来た橋を渡ったりしたな」
 カザリとチナが共に大祭を過ごすのは2度目。
 去年の事を思い出すカザリが、白い息と共に呟いた。
「はい、とっても高い樹から樹への……空に架かる橋……すごく感動でっ……!」
 チナも思い出しながら瞳を輝かせる。
 2人は去年、ポルテ村の大樹から隣のタブリエ村の大樹まで続く、白く透き通った空の道を手を繋いで歩いた。毎年、リヴァイアサンが姿を現すこの日は、エルフヘイム各地で不思議な現象が起こる。この空に架かる橋ができるのも年に1度だけで、2人で行ってみたのだ。
「寒かったのと、高かったのと、それと……チナがはしゃぎ過ぎて転んだのを、覚えているよ」
 くく、と少し意地悪な顔で笑うカザリ。
「え、こ、転んでませんよ? ギリギリ大丈夫でした!」
 好奇心旺盛なチナは、年に1度だけ現れる大きな橋に瞳を輝かせながら、ぱたぱたと走って足を滑らせてしまう。
「そうだな……寒かったけど、チナはあったかかった」
 チナが転びかけた時、カザリが繋いでいた手を強く引いて、そのまま抱きしめる形になったのだ。その時のぬくもりを思い出して、カザリの表情が柔らかくなる。
「え、あ、はい……う、動いてれば、あったまり、ますから、ね……」
 それを思い出したチナの顔は、みるみる赤くなった。
「今日に至るまで、本当に色々あった。……楽しい事だけではなく、戦いも、いくつも」
 赤くなるチナを見ながら、ふとカザリが呟く。
「なあ、チナ。一つだけ、わがままを聞いてくれ」
 真剣な、どこか必死な懇願にも感じ取れる瞳で。
(「わがまま?」)
「……はい、なんでしょう?」
 先程までの意地の悪い笑みも柔らかい表情も姿を潜め、真剣な雰囲気になったのを気付いたチナは、真剣な表情で向き直った。
「……生きていてくれ。俺は家族を、故郷を、失くしていて……」
 カザリは、そこで一旦言葉を止めて一呼吸する。
「この上、お前まで消えたら、俺は、きっと……」
 普段の冷静さはなく、震える手でチナを強く抱きしめた。まるで、すがるように。
 急に抱きしめられて、軽く目を見開いて驚いたチナだったが、自分を抱きしめる手が震えているのに気付く。いつも頼もしく自分を守ってくれた腕が、今は不安に震えていた。
「大丈夫です、お傍にいます……ずっと」
 チナは優しく抱き返す。この人の事が大切と、守りたいと、強く思いながら。

 悠然と雪の海を泳ぐリヴァイアサン。街で見るよりもずっと近く大きく見え、それは普段表に出ないカザリの弱さを包み込む、チナの大きな優しさにも似て――。
イラストレーター名:はなすけ