■リヴァイアサン大祭2013『完敗』
辺り一面に広がる白い絨毯。朝から降り続いている雪は地面を真っ白に染め上げる。「ねぇガルド。賭けをしない?」
セナが笑いかけた。
ここエルフヘイムでは、星霊リヴァイアサンが空を泳ぎ、1日中雪が降り続くリヴァイアサン大祭が行われている。この日だけ起きる不思議な現象もあり、折角だから見に行こうと、仕事前のガルドを誘って遊びにきたのだ。
「……なんかお前、悪だくみしてんだろ」
ガルドは、伏し目がちになって見透かすように軽く笑う。
(「……うっ……」)
その視線にドキリとするも、
「『雪玉10発先に当たった方が勝者の言う事を聞く』……っていうのはどう?」
笑顔のまま言葉を続けた。つまり、雪合戦の勝者が相手を好き勝手出来るという賭け。
「あん? お前が俺に勝てるわけねぇだろうが」
鼻で笑うガルドは、余裕に満ちている。
「うるさい! 俺が勝ったら……こっ、今夜こそ俺の……を……」
セナは、その態度に悔しさがこみ上げるも、肝心な最後の部分は、頬を赤らめて口ごもってしまった。
「よく聞こえねぇ」
口ごもった内容の大体の察しがつくガルドは、ニヤリと口端を上げて不敵に笑う。
「と、とにかく! 手加減はいらないし。全力で勝負だ!!」
更に顔を真っ赤にしたセナは、誤魔化すように雪玉を作り始めた。
――バシィ!
雪玉を作り終える前に、早速ガルドの初球がセナの肩にヒット。
「……っ! まだまだ!」
――バシッ! バシッ!
雪玉を作り終えて立ち上がったセナの太股と下腹部に連続でヒット。
「ぐっ……変なトコ狙うな!! 変態!!」
真っ赤になって、やっと投げたセナの初球は、いとも簡単にガルドは避けてしまう。
「甘いんだよ」
ニヤリと笑うガルドの球は次々とセナの体にヒットした。しかし、ガルドは無傷である。つまり、セナは1球もガルドに当てられていない。
「終わりだ」
「―――ちょ、え!! ま、マテって!! うああぁ!!」
ガルドが呟いた次の瞬間には、顔を庇って交差したセナの腕に新たな雪がついていた。
「まさか一発も当てられないなんて……」
セナは、がくりとその場に座り込む。
「チョロイわ」
一仕事終えた、と煙草をくわえたガルドは余裕の表情でセナを見下ろした。
「……で? お前の願いはナニ?」
セナは、潔く負けを認めて、勝者の願いを訊ねる。自分が持ちかけた賭けであるが、負けたのは自分だ。負けたからといって無かった事にするなどできるわけがない真面目な男。
「そうなぁ……俺の願いは……」
そっと耳打ちされた言葉に、セナの頬が更に真っ赤に染まった。