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2人でリヴァイアサン大祭

魔道書の錬金術士・ツユ
牙王・ヒスイ

■リヴァイアサン大祭2013『わがままを言わせて』

 今日は1年に1度、星霊リヴァイアサンが半実体化して上空を飛び回る日。リヴァイアサンは純白の雪が舞う中を優雅に泳ぎ、その影響でエルフヘイムの各所では不思議な現象が起こっている。
 そんな特別な日を、ツユはヒスイが持つ秘密基地で一緒に過ごす事になったのだ。秘密基地とはいうものの、ヒスイが静かに過ごしたい時に利用する空家や廃屋なのであるが。
 天涯孤独で放浪していたツユを拾って育ててくれたヒスイ。親子のように過ごしていたのに、黙って一人旅に出てしまい、数年間姿を見せずに心配させた埋め合わせが今夜なのだ。

 窓ガラスがところどころ割れて、カーテンもボロボロになっている廃屋の一室。
(「折角だから甘えたいけど……恥ずかしいな……」)
 淡い初めての恋心を抱いた人。
(「ひーちゃんにとって、わたしは家族、だもんね……」)
 その恋心は叶わない、叶える気は無い、そう思っていても、心の奥底では未だに色褪せない。
「予習、していいですか?」
 素直に甘える事のできないツユの口から出たのはそんな提案。
「何の予習だ?」
 ソファに腰かけて本を読んでいたヒスイが顔を上げた。
「未来に出来る大切な人と過ごす為の予習、ですっ」
「……」
 その言葉にヒスイは、ふっと小さく微笑み、
「分かった。俺は何をすればいい?」
 優しい眼差しで快諾した。
「ケーキ作ってきたんです。それを、ひーちゃんのお膝で食べたりとか……」
(「……駄目、かな……いいよね……?」)
 次にヒスイの口から出てくる言葉に少しの不安を抱きながら、そんな素振りを見せずにケーキを皿に乗せるツユ。
「あぁ……」
 ヒスイは、読んでいたページを開いたまま本をソファに置いて立ち上がると、ツユを軽々と抱え上げた。そのままソファに座り直してから、その膝の上にツユを座らせる。
(「……! ……ちょっとドキドキしちゃうなっ……!」)
「あ、りがとう、ございます……」
 ツユは顔が熱くなっているのを隠すように、皿に乗せたケーキを一口頬張った。ツユの想いに全く気付いていないヒスイは、先程ソファに置いた本を再び取り、続きを読んでいる。
 完全に家族団らんを楽しむヒスイに、
「……うん! 美味しくできた♪ ひーちゃんも味見してくれませんか?」
 にこにことケーキを一口分フォークに乗せて口元に運んでみることにした。
「……」
 ヒスイは、視線を本からツユの差し出すフォークに移して優しく微笑むと、あーん、と口を開く。そこへツユがゆっくりとケーキを運んだ。
「……どうですか?」
「美味しいよ。頑張ったんだな」
 不安そうに訊ねるツユに、ヒスイは柔らかく微笑んで頭をぽんぽん、と軽く撫でる。
 その大きくて優しい手と、久しく感じるヒスイの体温にに安心しきったツユは、ヒスイの胸に頭を預けたまま小さな寝息を立て始めた。
 心地良い体温に包まれて――。
イラストレーター名:はお