■リヴァイアサン大祭2013『白と黒で織り成すものは』
「私と踊っていただけますか?」フェリスは、はきはきと上品な言葉遣いで、淑女然として、ネイムに微笑みかけた。
「あ、あぁ……ぜひ、こちらこそ」
普段とはあまりにも違う恋人の姿に、少しだけ気後れしたネイムだが、頬を染めながら右手を差し出す。真っ白なタキシードをビシッと着こなした、その大きな手に、フェリスの黒い手袋をまとう手が、静かに乗せられた。
のんびりとした口調で、化粧気もまったくない、飾らない自然な美しさを持つフェリス。いつもなら。だが、今宵は全く違う。メイクも完璧に決めて、胸元の大きく開いた黒のドレスを着こなしていた。ドレープがふんだんに使われ、ふわりとしたシルエットを作るドレスは、黒というシックな色にも関わらず、可愛らしさを忘れていない。しかも、どこの淑女かという程の上品な言葉遣いだ。
この舞踏会にネイムを誘ったのはフェリス。恋人に綺麗な自分を見てもらいたくて、普段やらないメイクも頑張った。ドレスも凄く迷った。しっかりメイクしてドレスを身にまとうと、背筋が伸びる気がして、言葉もすんなり出てきた。
(「頑張ったんだよ。ファーザーの為に」)
そんなフェリスの想いは、繋ぐ手からネイムにもしっかり伝わる。
「綺麗だ……」
ネイムは頬を染めながら、うっとりと呟いた。
「あ、いや、普段が綺麗ではないとか、そういう事ではなくなっ……普段から綺麗だし可愛いのだが、今日は一段と綺麗で……」
更に顔全部を真っ赤にして、わたわたと言葉を続けるネイム。
「……分かっています」
フェリスは、くすっと小さく笑って、にっこり微笑んだ。
「……こほん……では、行くか」
軽く咳払いをしたネイムは、フェリスの手を引いて導く。色とりどりのドレスの花が咲き乱れる輪の中へ――。
ひとしきり踊ると、少し夜風に当たって休憩をしようと、バルコニーに移動する2人。
「手を出してくれるかい?」
柔らかいネイムの声に、きょとん、としながら、両手を差し出すフェリス。ネイムが左手を取ると、するすると手袋を脱がした。ポケットから小箱を取り出し、蓋を開けて一呼吸。
「……」
無言のまま、じっとフェリスの指先を見つめ、小箱の中で銀色の光を放つ指輪を、その薬指にそっと滑らせる。
「え、あの……これって」
フェリスは、目を見開きながら、信じられない、といった表情でネイムを見つめた。ネイムは無言のまま頷く。
去年、ウェディングドレスを見て『憧れる』と言っていた少女。世間的に結婚が認められる20歳になって、自分が誘った舞踏会で、思わぬ、でも、待ちわびていた贈り物。自分の左手薬指にはまった指輪を胸に抱きながら、フェリスはぽろぽろと涙を零した。、
「ありがとう、もっともっと幸せになろうねー」
嬉し涙を流し続けるフェリスは、とびきりの笑顔でネイムに抱きつく。今までの上品な言葉ではなく、いつもの彼女の言葉になって――。