■リヴァイアサン大祭2013『 Many happy returns』
暮れなずむ空から、ちらちらと雪が降り注いでいる。そんな中、祭りに活気づく街角を、ブラックとアッシュの二人が並んで歩いていた。
繋がれた手はそのままに、意識せずに歩調を合わせていた。空いている手には、夜から始める予定の家族パーティのための買い出しの品。
自分達と同じく家で過ごすのだろうか。すれ違う家族連れに、ブラックは目を細めた。
それから、ふと視線を持ち上げる。
「もう一年か、早いな……」
雪のようにぽつりと落ちたブラックの呟きを拾い上げ、アッシュがそちら見やる。ブラックもまた自然とそれに気付いて、ゆるりとその視線を絡めた。
「お前と出会って、色々あったな。……家族も増えたし」
思い出すのは、彼と出会ってからの日々。
変わりゆく自分の中心には、隣にいる彼がいた。そんな彼が手に持つ、家族のための荷物にふと視線を落とす。
「幸せな、一年だった」
ゆっくりと息を吐きながらの言葉は、アッシュの耳にはどう聞こえただろうか。
しみじみと思い起こしたように語った男は、静かに口の端を緩めた。
「一緒にいてくれて、有り難う……アッシュ」
照れ臭そうに笑った。
それでもブラックのその言葉に、笑う表情には偽りなどない。
アッシュにはそう、思えた。
「それは……」
ほんの少し、躊躇ったかもしれない。けれど、アッシュはたどたどしく唇を動かす。
「……俺の台詞、だ……」
年に一度の、こんな日くらいは。
「背を預け、弱い部分すらも見せられる相手が出来るなんて」
黙して言葉の先を待つブラックの気配に後押しされるように、口を開く。それは、普段の彼であれば口にしない言葉。
「……一年前の俺なら思いもしなかった」
一年。
短いようで長い一年は、まさに今隣にいる彼と過ごしてきた時間そのものだ。
もし自分が変わったとするなら、それは。きっと。
アッシュの紫眼に、ブラックの銀の瞳がはっきりと映る。
「お前は俺の……一番大切な人だぞ」
微笑み、深く絡み合う指先をぎゅっと握ってみせた。
手袋越しにでも伝わる体温が、心地良く感じられる。
その手を優しく握り返したブラックは、何気なく空を見上げた。
長く吐いた息は、僅かに白い。
「……寒くなって来たな。ブランも待ってるし、早く戻ろう……」
「ああ、うちに……帰ろう?」
頷き、視線を前方に戻したアッシュの横顔に、ブラックは自分の唇を寄せた。
そして低めた声で、耳元にそっと囁く。
「勿論、ブランが寝た後は……」
「……? ……っ!? な、お、お前、ほんと……!」
意味深に途切れた言葉の先。
冷えてきたはずの頬、むしろ顔全体が紅潮している気がして、アッシュはしどろもどろになる。
けれど、
「……ばか」
アッシュが僅かに頷いたこと。
それに気付いたのは、きっとブラックだけだろうか。
共に帰る家がある。
何より隣に大事な人がいる幸福に、身の内が満たされて。
そうして二人は、我が家への帰路に就く。