■リヴァイアサン大祭2013『奥様は魔女(?)、旦那は仕事人間(?)』
――トントントントン。キッチンではエルフっぽい服装に身を包む可愛い奥様――リセリアが、包丁とまな板で小気味良いリズムを刻んでいた。
(「えっと……シチュー用の深い皿は、どこに……」)
食器棚の前では、同じくエルフっぽい服を着たヴィンツェンツが、頭から『?』を浮かべながら難しい顔をしている。
普段は仕事人間で忙しくしている彼だが、偶の休暇には、可愛い奥さんの手伝いをしようと食器の準備を買って出たのだ。しかし、食器の位置を把握していなくて悪戦苦闘中。
2人がエルフのような装いをしているのは、今日のリヴァイアサン大祭に合わせて。昔は、ハイエルフとダークエルフがパートナー同士の絆を確かめ合う日だったというから。
「ヴィン君ー、ちょっと味見して欲しいんだけどー」
リセリアは、味見用にシチューを一口分垂らした小皿を持って、愛しの旦那様を呼ぶ。
丁度ヴィンツェンツは、なんとか必要な食器を見つけだして、トレイに乗せているところだった。
「いいよ」
微笑んで返事をした彼は、食器を乗せたお盆を持ったままリセリアの方へ。
隣にきてくれた両手の塞がっているヴィンツェンツに、「あーん」と味見用の小皿を彼の口元へ運んだ。
「美味しい、かな?」
リセリアが、少し不安そうに上目遣いで聞いて、
「美味しいね」
ヴィンツェンツは、微笑んで答えた。
シチューはできたし、ケーキの仕上げしなくちゃ、とリセリアがオーブンからケーキのスポンジを取り出す。スポンジを冷ましている間に、生クリームを泡立てておくことにした。
「うーん……」
少しずつ混ぜている砂糖の加減がイマイチ決まらないリセリアが難しい顔をする。
――ひょい……ペロ。
食器を下ろして横で見ていたヴィンツェンツが、生クリームを指ですくって舐めた。
「丁度いいんじゃないかな」
呟いて、「ほら」と、指に残ったクリームをリセリアの唇に運ぶ。
「……丁度良いね! じゃあ、次は果物切ってデコレーションして……ヴィン君は座ってのんびりしてくれてていいよ。食器もありがとね♪」
頑張るリセリアの邪魔にならぬよう、静かにその場を離れるヴィンツェンツ。その顔は、彼女の頑張りが嬉しくて、笑み崩れていた。