■リヴァイアサン大祭2013『蜜と紅茶と龍の空』
「蜂蜜の川って、本当に蜂蜜なのかしら。紅茶に入れたらどんな味がするかしら」雪が降り続き、その中をリヴァイアサンが悠々と泳ぐ――12月24日は、年に1度だけ色々と不思議な現象が起こる。その一つに、小川に甘い蜂蜜が流れる、という現象があるのだ。
それについてフェイランが、ぽつりと謎を口にしたのである。
「まぁ、甘いでしょうな」
その謎に答えたのがリョウ。じゃあ、実際に試してみようと二人で紅茶を飲むことにしたのだ。
間借りしたエルフヘイムの酒場の一角。
川から持ってきた蜂蜜、リョウが選んだ紅茶の茶葉、甘いならミルクティーかしらとフェイランが用意したミルク。
それらを前に、紅茶を淹れるのが得意なリョウが、慣れた手つきでティーポットに茶葉を入れ、湯を注ぐ。
「なんでしょ?」
自分に注がれる視線に気付いたリョウが、きょとんと小首を傾げる。フェイランが紅茶を淹れるリョウをじっと見ていたのだ。
「なんでもないのよ?」
フェイランが、紅茶を淹れている時ってとても楽しそうねと、ふふりと笑う。
紅茶はリョウにとっては母親の思い出の品。それゆえか、心を込めて淹れているというのがフェイランにはよく分かっていた。
「リョウはお父様とお母様にとても愛されていらしたのね……少し、羨ましい」
ぽつりと独り言のように呟いたフェイラン。彼女は母親から虐待されていた過去がある。だから、思い出を大切にできるほど両親に愛されていたであろうリョウが少し羨ましいのだ。
ふいに窓越しから空を見上げると、リヴァイアサンが悠々と空を泳いでいる。
「わ、リヴァイアサン!」
フェイランが思わず声を上げた。うっかり紅茶に気を取られて、肝心なお祭りをわすれていたわ、と続ける。
(「リョウの傍はとても心地良くて安心するから、忘れていたのよ……」)
本人の前では言わない言葉を胸に隠して、
「メリーリヴァイアサン」
夜空を泳ぐリヴァイアサンを見ながら小さく呟いた。
どうかもう少しだけ、この穏やかな日々が続きますようと願いを込めて――。